愛するということ 第一章 4



で何とかその場をしのげた。
最初、四人の脳には、まだアドレナリンの過剰な興奮作用により眠気は一切起きていな
い状態であったが、長いススキをベッド状に倒して寝そべった時、安堵から来た急激な睡
魔が彼らを甘く誘惑した。
一体どれくらい眠りについたのだろうか? 彼らが目を覚ます頃には、東の太陽が広く
澄んだ青空に揚がっていた。エネルギーからなる煌めきが、エメラルドグリーンの海上で
反射しているのを、正樹は上半身を起こした状態で見た。それは、とても眩しかった。
完全に目を覚ました兄弟に、どうにもならない空腹感が襲い掛かってくる。育ち盛りの
彼らは、心身共にもはや限界にまで達していた。
兄弟はススキ群から起きると、日用品が多数置いてある商店があるであろう目ぼしい方
角へと彼らは歩き始めた。無論、お金など一円たりとも持ち合わせてはいない。しかも四
人は裸足で、回りから見ればそれだけでとにかく不自然である。
どれくらい歩いただろうか? しばらくして兄弟は、弁当屋と兼用して日用品を販売し
ている『上間商店』と言う小さな店を見つけた。
店の前にたどり着いた後、豊がある簡単な盗難作戦を計画した。まずは窓越しから中の
様子を伺う。そしてその後、次男の学の顔へ向き最初の指示を出した。

――
まず、学はこの中で足が早いから、盗んで逃げる役を合図をしたらやってくれ」
何時もの隊長気取りでしゃべる。学が士気を高めたように深くうなずいた。
「正樹は亮を連れて、向こうのゲートボール場の後ろで隠れてろ。後で迎えに来る」
正樹はオドオドしながら、何度もうなずいた。
豊は正樹たちがゲートボール場へ消えてゆくのを確認した後、細かい作戦の詳細を学へ
話した。
「いいか、学。お前は菓子パンのある棚の方で、どのパンにするか選んでる振りをしてお
いてくれ。そんで、俺だけがレジに行って、あのハゲ親父に

お父さんがいつも吸ってるタ
バコ
……
。えっと、何だっけ? あっ、思い出した。あの、 『セブンスター』て言うタバコ
下さい

って話しかけて、レジの後ろの棚にある煙草の方にハゲ親父向けさせた時、すぐに
合図するから、お前は菓子パンを持てるだけ盗って逃げろ」
「うん、わかった。でも、どこに?」
学は困ったように尋ねた。この辺一体は、集落から海側に下りた飛行場跡地近くに出来
た全く新しい集落で、全然といって良いほど土地勘が無く、ゲートボール場もこの店自体
も歩いている際にたまたま見つけたばかりだった。豊は少しだけ考えた。
「ゲートボール場まで行って正樹へパンを預けた後、今日作った秘密基地まで一人で逃げ
ろ。自分達は後から来る」
ここで学は有無を言わず承知した。

秘密基地

とは言うまでも無く、彼らがしばらく拠
点とする寝床の事を意味している。
「いいか、俺とお前は店の中では他人だぞ。じゃないと俺が捕まって終わりになるからな」
豊は釘を打つように話した。学は了解し、深くうなずいた。
まずは学から先に店の中へ入った。言われたとおりに飲み物がぎっしりと収納されてい
る大きな業務用冷蔵庫から好みの炭酸飲料を一缶だけ持ち出した後、目的の棚へ足を運ん
だ。それから菓子パンをどれにするか迷っている振りをする。豊がそれを確認後、店の中
へ入った。
この店は幸いな事にレジ台が入り口付近ではなく、昔の作りで入り口や奥の各棚等が全
て確認できる、やや中央寄りの場に設けられていた。菓子パンの入る棚は入ってすぐ右に
ある。入り口のドアは豊が開けっ放しにしてあった。
この時、客は誰も居なかったのと裸足であることが気がかりだった為、店主は学の行動
に注視していたが、豊のタバコ作戦通りにそれをコチラへ逸らす事が出来た。
作戦は上手く行った。豊が煙草の注文をした後に店主が学の方角から完全に背を向けた。
その瞬間に豊が素早く合図を送り出した。
学は缶ジュースを脇に挟み三つほど菓子パンを掴んで外へ駆け出した。
店主も振り向くのが早かった。盗難と直に気付くや否や慌ててレジ台から外へ向った。
店主はレジを離れるわけには行かなかった為、外で少年が逃げる方向を確認した後、警察
へ連絡する為に電話機のあるレジ台へ戻ってきた。もはや豊の注文など後回しと言わんば
かりに電話に向って説明に没頭している。それを見計らい豊は足早に外に出ようとした。
が、それは豊が思っていたほど簡単な事ではなかった。
「ちょっと待ちなさい!」
店主が豊に叫んで言った。
「君、あの万引きした子、見た事あるかね?」
「ううん、見た事ないよ」

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