愛するということ 第二章 9


「それに、除霊はまだ終わってない。確かに彼女に取り付いた霊はあのあと成仏したわ。
そう、彼女の魂諸とも抜き取る手法で。でも手違いで今も仮死状態で居る彼女の魂は今、
生霊と化して私ではなく貴方の背中に取り付いている。これを払い元に戻すには私が貴方
の彼女を演じる事で貴方の背中からこっちを睨む女性の魂を私の身体の中にある一部の核
にあえて呪い移させる事。勿論、その時に何も出来ないように完全に閉じ込め無力化させ
る。そしてその後に貴方の家で危篤の彼女にその無力化した魂を吐き出して戻せば良いだ
け。最初にそう話したでしょ? だから誤解はしないで。あ、それと、これはまだ話して
なかったけど、彼女が危篤してから再生するまでの貴方と私の間にあった事は、煎じた薬
と術によって記憶を消去させてもらうわ」
倫子は

貴方を愛しているわけではない

と言う事を徹に悟らせる様に、さっぱりとした
口調で念を押した。
「ふざけやがって。それならそれで結構。遠慮なくお前の体をボロボロにしてやるよ」
徹はそう発した後、倫子の顔を平手で思い切り叩いた。
「股開け! この娼婦が!」
この夜、倫子の喘ぎは明け方近くまで続いた。
時は更に遡り、一九八四年の十二月二十六日。
昨日一昨日と、上村家の母屋内にはクリスマスソングが鳴り響いていた。
広い庭の至る所には、白赤緑で鮮やかに演出する半透明のプラスチックで出来た数々の
人形達。その物体の中には白熱球が仕掛けられており、夜になれば優しくて温もりある光
を与えてくれた。洋風でエキゾチックな建物の外壁正面には、二階辺りから芝へ垂れ下げ
たネットへ施したイルミネーション。そして、少し手前にある何本かのモミの木までもが、
イエスキリストの誕生日を祝うように、実に様々な飾りで彩られていた。
夜になれば其処はまるで星の世界。その目に入る全ては屋上に広がる夜空と共に一体化
されコラボレーションしている様に見えた。倫子はこの年もクリスマスイヴから外出を控
えており、二十五日の夜まで娘達と共にキリストの誕生日を祝った。
朝、上村家にはまだクリスマスの余韻が残されていた。
この日の朝食は、昨夜にも出たマッシュルームスープにシーザーサラダ。主食は表面を
少し焦がしたフランスパンにハーブとニンニクが効いたバターを擦らせたガーリックトー
ストだった。朝だというのに、バタークリームでスポンジが覆われたかなり甘く深い味わ
いの特製クリスマスケーキまで付いている。
今日は家政婦ではなく料理の下手な母が拵えた食事らしいと知子は思ったが、恵はお構
い無しにまずはケーキから手を付けていた。倫子はそれが可笑しかったのか、そこでクス
クスと笑い、そこから連鎖的に娘たち二人も笑った。やがてはその楽声は大きくなり、静
かだった建物内にまた一つ『家族愛』を染み込ませた。
本当に和やかな、そう、窓から差す朝のこぼれ日に似合うとても和やかな朝。
あの電話が鳴るまでは
――

この日は家政婦が彼女らの身の回りを世話する事になっていた。出勤は十三時予定。
倫子はリビングから見えるハト時計を眺めた。今現在の時刻は十時になりかけた辺りだ
った。幸いにも、毎年クリスマス前後は緊急依頼電話が非常に少なかった。その為、イヴ
と二十五日は極力全休とし、参加できる者のみでクリスマスパーティーを楽しむのが恒例
となっていた。
この日も今の所、緊急の電話は鳴る事が無い
――

本日、除霊所で行われる経読みは朝一から十三時に繰り下げて行われる予定。それまで
ゆっくり出来そうだわ。
それから六分位経ってからだろうか? 朝食の後、姉妹が正面の広い庭へ花を摘みに出
てから一風変わって静けさを取り戻したこの大きな屋敷内を「ドキリ」とさせる様にとつ
ぜん固定電話の受信音が大きく鳴り響いた。倫子は慌てて電話へ向った。
「はい、もしもし。上村です」
荒れた息を落ち着かせてから倫子は言った。


倫子さんですか? 俺です。徹です。あの……、その、大変な事に


かなり気が動転した様子で徹が電話越しに話してきた。
「徹さんですか。御久しぶりです。あの、とりあえず落ち着いて下さい。何が大変なんで
すか?」


美代子が大変な事に
……
。嗚呼
……”

「しっかりして下さい。美代子さんが、どうしたんですか?」

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