愛するということ 第二章 20


ぬくもりを包み込むように局部へ乗り掛かる知子へ徹が思わず発した。知子は瞳を閉じ
たまま表情を官能的でいて、かつ、やや桃色に赤面させている。左右二股に分かれてうな
じを通り、彼の腹部方向へと垂れ下がった黒く長いロングヘヤーが、恥ずかしく勃起する
乳首辺りで揺れていた。知子は更に細くしなやかな体をくねらせるように、激しく上下方
向へと動かす。互いの極まった声が部屋中で数回もぶつかり合った。その時。
寝室内にある全てから影を奪うかの様な。非常に眩しい光が官能的に浸る二人の脳を襲
った。途端、辺りは真っ白な世界に染まった。光に包まれ全てを無くした様に見せるこの
白い空間に居たのは、知子でなければ徹でもなく、彼の背中に悪霊としてとりついていた “ 志津絵の心 ” を持つ “ 美代子の生きた魂 ” のみ。知子と徹の二人は、現実の世界で意識を失
った。が、しかし、どうやら徹に縋り付いていた

美代子の魂

と共に、コチラへ魂が運ば
れたと言う訳ではない様だ。志津絵の心を持つ美代子は、今、全てを身にまとう事無く全
身の肌を露にした状態に居る。この空間に風は無い。また、光から得られるぬくもりもな
かった。美代子は、誰も居ない世界にてただ一人、胸元を両腕で隠す事無く唖然と立ちす
くんでいる。ふと、頭部が気にかかり、利き腕を上げて撫でてみた。全ての頭髪が無くな
っている。理由は分からないが、とにかくあの光の作用によって抜けてしまったのか? 慌
てて彼女は足元の確認を急ぐように、うつむきふためく素振りを見せた。しかし、足元も
また白く、彼女の黒髪など微塵も見えなかった。
「志津絵
――

不意を突く様に、背後から声がした。それは、志津絵の記憶に残された男性の声。中枢
神経より全身が急激に熱くなる。彼女は両手で口元を塞ぎ、背後へ振り向こうとした。し
かし、とても振り向く事など出来ない。彼女は視界に入る範囲内で自身を映し出す鏡を求
めた。何も無い。再び声が聞こえる。確かに彼は自分に先ほどよりも近づいている事が分
かった。
「来ないで!」
この感情は、美代子から来た声だったのかもしれない。一体化している二人の魂は、身
体内で今、息をとても荒くしている。声と気配が突然消えた。志津絵の心は、その事に対
して瞬時に察知した。ゆっくりと振り返ってみる。しかし事態は去り行き、既にその方向
には何もなかった。彼女は涙を滲ませた。嗚呼、なんという事なの? 全てを剥がされ何
もない自分となった時に彼は現れた。これは何を意味するのか? 彼女にとって、それは
とても辛い仕打ちにしか感じなかった。もう私はこれで終わり。もう彼はここには来ない。
自分はここから抜け出す事さえ許されない。自責に満ちた声が背中に幾つも重く覆い被さ
り、とうとう彼女は崩れる様にしてその場へひざまずいた。途端、強烈な眠気が強制的に
訪れた。彼女は座り込んだ状態から倒れるようにして横たわった。そして、浅い夢を見た。
ここは、あの空間と同じく、全てが白いがとても心地よい。それでいて何よりも裸で横
たわる自分の背中に温もりを感じた。耳元で優しいささやきが聞こえる。あの時、自分を
呼んだ慶三の声だ。彼女は彼から届いた言葉を理解した後、顔を振り向かせ相手の目を見
つめた。受け取った言葉に対し同じ意味をもつ返事を発した時、二人の唇は重なり濃厚に
絡みつく。やがて二人の体は、愛する事を求めて激しく抱き合った。互いに絶頂を迎えた
とき、二人の魂は更なる光となり、全ては天へと安らかに消えて行った。志津絵が慶三と
共に成仏した瞬間だ。

知子が目を覚ました。其処に徹の姿は無い。寝室の南面から突き出した出窓から朝の光
が射している。寝間着を身にまとう彼女は、上等なベッドから身を起し窓辺へ歩いた。洋
風に片面三つとガラスを区切る木製の窓を開き、外の空気を寝室へ一気に流し込む。実に
様々な鳥や虫の囀りと共にそよ風が自身を包み込んだ。知子は目を閉じた。全ての匂いを
一杯に鼻から吸い込む。森と緑色の芝生がすぐ目の前に感じ取れた。それから目をゆっく
りと開き澄渡る上空を眺めた。ここは、きっと違う世界だわ。知子はそう実感した。彼女
は視線を森の大木に移した。太い根が土から顔を覗かせるその側には、沢山の花が咲いて
いる、それを二人の少女が選ぶようにして幾つか摘んでいるのが見えた。自分と恵だ。知
子は、驚きを隠せない様子で目を見開らいた。知子は母屋の玄関口へ音を立てる事無く急
いだ。上等な扉をすり抜けた瞬間に体は重みを成して通常の状態となる。素足のまま二人
に向かって歩いた。踏みつけた葉の一枚一枚がひんやりと冷たくとても気持ち良い。姉妹
が女性の存在に気付いた。
「おはよう」
知子が先に彼女らへ言葉をおくった。
「おはようございます」

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