愛するということ 第二章 21


とても明るい挨拶が幼き彼女自身から返ってきた。
「あの、おねえさんは、誰?」
やや怪しげに此方の世界の自身が問いかけてきた。
「あ、私ね。倫子おばさんの従姉弟の娘よ」
「あっ! もしかして、恵美おばさんの? ちがうか!」
彼女の記憶にはっきりとある懐かしい顔立ちをした少女は、苦笑いを浮かべた。
少し遠くに見える正門が、錆付いた部分を軋ませる様に音を立てて開いた。大人の男性
らしき者が一人、中へ入ってくる。
「みんな、何をしてるのかな?」
男性は一瞬、知子の顔にチラッと視線を向けたあと、直側にいる少女二人に笑顔で話し
かけた。
「おとうさん。おかえりなさい」
男性は「ただいま」と返事を送った後、「お嬢さんは?」と知子へ言った。
「わ、わたしは
……

知子は思考が吹き飛んだかのように頭の中が真っ白になった。
「知子と恵は、そろそろお家に戻っていなさい――」
男性は彼女らがブツブツと話し合いながら母屋へと戻っていくのを確認した後「向こう
の世界の知子ちゃんだね?」と、優しく話しかけてきた。
「どうしてそれを
……
。まさか
……
。徹さん」
知子の脳が激しく混乱した。目の前に居る男性は、上村の姓をもつ山田徹であり、彼自
身も、実は、もう一つある世界の存在と彼女を知っていた。
「実はね、向こうで自分と交際していた美代子さんが、昨日の晩来ていたんだ。正直驚い
たよ。倫子さんと結婚してから心霊現象や色々とね、聞かされては居たんだけど、それで
も今まで全く興味が無かったから。いや、本当に今日君とここで出会うまで、あれは夢だ
と信じて疑わなかった。それにしても、まさかあの世界で自分が君に
……

「いえ、こちらの世界に存在する徹さんの責任じゃないです。気にしないで下さい。でも、
あの
……
、ここに居る徹さんは、お母さんと結婚してたんですね。自分も本当に信じられ
ないです」
「ああ
……
。でも、こっちからすれば逆におかしくなりそうだよ。向こうの自分は『上村』
となる事無く強制的な愛人となり、君や倫子を苦しめて居たとは
……
。まったく酷いもん

……
。本当にすまない」
「あ、あの、美代子さんは ……


……
残念だけど、君の運命と共に
……
。自分にはどうする事も出来なかった。なんと言
えば良いのか
……
。本当に申し訳ない。まさか、恵だけを残して全てが消失してしまうと

……

彼は表情をくしゃくしゃにして涙を流し始めた。
「わたし
……
。死んじゃうんですか? 消失? どうして
……

美代子と自身の死を察した知子は、気が重く動転した。


全ては、一人残された恵ちゃんが、この全ての運命と導きにある深い意味に

、か。本
当に不思議な体験だった。コチラの世界に戻る前に、全く面識の無い紳士的な老人が一人
突然訪れてね。その方が最後に色々と話されたんだよ」
「あの ……
。わたしは、これからどうすればいいんですか?」
「それは自分にもわからない。自身の最期に行うべき事は、君にしか見えない。只、一つ
言える事は、全てには理由があるということ。知子は何故、今、ここへ導かれたのか? 行
き着くまでにはとても遠く感じられるが、答えはいつも意外と簡単な所にある」
少しばかり沈黙が続いた。朝のそよ風は一旦止んでいたが、再び知子の長い黒髪を靡か
せ始めた。徹は、彼女の困惑した表情から顔を逸らし、まるで涙を乾かす様に太陽が昇る
とても青い上空を思い切りに見上げた。一方の知子は、緑色に広がる芝に付着した滴を確
認するかのように、やや俯き、そして焦点をぶらつかせた。彼女は、これまで自身に与え
られた運命の記憶を辿った。知子はとっさに俯いた顔を起し、ガマ側にあるこの森の深く
を見渡した。しかし、異常な物体の気配は何も感じられない。確認を終えた後、気がかり
な結界があるであろう先にある向こう側を見てみる。どうやらもう一つの世界とは、少し
様子が違っている事が分かった。知子は、徹に何を言う事無く、敷地内にある目的の場所
へと急に歩き出した。徹は共に向かうようにして彼女の後を黙って追った。
「ここに何か感じるのかな?」
知子がやっと足を止めた場所で、徹は話しかけた。
「いえ。向こうの世界では、こんな物なかったから
……
。ちょっと気になって」
「ああ、そうか。確かに向こうでこれはまだ存在しないはずだね
……
。知子ちゃん、全て

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