愛するということ 第二章 22


は君が決める事だ。このままこの世界に居る事も、また一つの手段だと思う」
徹は、確かに全てを知っているかの様に発した。そして知子は、この時、この言葉の意
味を瞬時に理解できた。
「わかりました。徹さん、ありがとうございます」
四角い盾の様な慰霊碑。その側にもう一つ建てられた背丈ほどの塔に、大きく刻まれた
先祖の名を目視した知子は、全ての答えを見つけ、そう返事した。
「いや、いいんだ
……
。知子の答えは正しいと思うよ。自分はね、これからも、君達二人
をこの世界で精一杯に、最後まで大切にしたいと思ってる。それが、あの体験が教えてく
れた僕の答えだからね」
知子の瞳は涙で滲んだ。光は再び彼女を迎えに来た。最後にどうしても口から出せなか
った言葉を徹へ向けて発する。さよなら、おとうさん ……


恵は廊下の先で倒れていた。除霊所も含む全ては、深夜の冷気を吹き飛ばすほど非常に
激しく炎を上げている。除霊所の主柱となりうる箇所が完全に耐久性を欠けた時、屋根は
もろくも崩れ、勢いを増した炎が梁を食い尽くした時、全ての壁を倒壊させた。幸いにも
母屋は其処まで至っていない。恵の命にはまだ生存の可能性が残されていた。が、しかし、
誰一人として救助に向かう事が困難視されるほどに、全ての入り口からは炎が噴出してい
た。もはや彼女自身が目を覚まし自力で脱出するしか術は無い。万事は休した。うつぶせ
気味に倒れた恵は、寝言のようにうめき声を繰り返している。
出火の原因は、美代子の霊がまだ残った徹による突発的な放火。彼は後に、自身の乗用
車にて意識が戻る事無い美代子と錬炭自殺しているのが発見された。徹と共に倒れていた
知子の物体は、彼女の魂が違う世界へと運ばれた後に、何故か姿を消していた。恐らく彼
女の場合、倫子と同様に、五体全て完全にあの世界へ辿り着いたかに思われた。恵は、遮
煙される事なくこの区間へ充満し行く煙によって、とうとう完全に意識を失ってしまった。
燃え盛る火の手と建物の崩壊は、どんどん彼女の周囲にまで及んでいる。もはやこれまで
か? その時。一瞬、恵の手の先が何かに反応しピクリと微動した。
「恵
――
。めぐみ。めぐみ、起きて」
「おねえちゃん
……
。おねえちゃん
……

恵の意識は、まだ完全には回復していない。
「しっかりして。ほら目を覚まして。もう大丈夫よ」
知子は、倒れた恵の状態を起し、あたかも空間を浮くようにしてその場から屋外へと移
動を始めた。その時、時間の中に発生するであろう周囲から出る様々な音は、完全と無に
等しかった。恵は助かった。今、彼女の目に入る光景は、全焼し崩れ落ちる上村家の最期
とも言うべき場面。
「怖いよ、おねえちゃん
……

知子へしがみつく恵の両腕に、思わず力がこもった。それに応える様にして姉は頬をす
り寄せた。
「恵
……
。おねえちゃんこれからね、絶対にやらなきゃいけない事があるの。私達の為だ
けじゃない。ここに居る皆の為にやらなきゃ
……
。ちがう。そうじゃなくて、生きなきゃ
いけないの。そしてね、開放させるの。幸せを見つけて」
知子が発した言葉の理由に関して恵は到底理解出来なかった。ただ彼女は、知子のこの
決意こそが、これから自身より去り行く理由なのだと言うことを何故か直感的に察した。
「だめ! そんなの駄目だよ。おねえちゃん、お母さんみたいに何処か行っちゃうの?」
恵は思わず涙目になりながら知子の顔を見た。母である倫子と知子が二重に映し出され
ているように見えた。
「違うのよ
……
。知子お姉ちゃんがこれから行く所は、恵の心。勿論、お母さんも一緒よ。
だから大丈夫。離れたりなんかしないわ」
知子は、母と同じ口調で話している。
「生きて
……
。そしてね、幸せになるの。これから本当に死ぬほど辛い事があっても、そ
こに隠された答えの意味が分かるまで。大丈夫、全ては報われるわ」
その後続いた知子のある話に対して、今の恵にはとても理解できる様な内容ではなかっ
た。只一つ言える事は、彼女にはこれから進むべき使命があり、これまで関わった全てに
ある出来事を意味として生きる事。話しの全てが終わった時、二人は突如として発生した
光に導かれた。まるで吸い込まれるかの様にガマの中へ消えていく。
この地域に朝が訪れた。
毎朝のように聞こえるとても暖かい音色が、今朝もこの地にある全ての魂を、恵の体内

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