愛するということ 第二章 4


してくれ」
倫子と一番弟子を乗せたタクシーが拠点に着いたのは昼前の十一時を過ぎた辺り。何時
ものように第二の結界外となる正門前にて二人は下車した。
倫子と一番弟子は帰宅途中の乗り物の中で運転手に悟られぬよう専門用語等を駆使し今
回の件について話し合っていた。そして二人共に合致した答えは、やはり

第一の結界の何
処かが破られている ”
と言う事。
「ありがとうございました」
後部座席の左に座っていた一番弟子が下り、続いて倫子が下車する際に、運転手がそう
発した。その後、運転手は倫子がドアから離れるのをじっと見つめていたが、倫子は下車
し立ち上がろうとした体制から動こうとしない。どうやら門扉の間から見える敷地内を彼
女は睨んでいる。
遅かったか
……

「お客さん。大丈夫ですか?」
運転手が彼女を我に戻す様に言った。
「あ、はい。ごめんなさい、今、降ります
――

タクシーを下車後、二人はその場に立ち竦んだ。
「先生。これじゃ第二の結界が破られるのも時間の問題ですね」
一番弟子は唖然としながら言った。それに対して倫子は何も返さなかった。
断末魔のような顔をした戦没者の霊が門扉に隙間無く張りつき口を開けたままコチラを
睨みつけている。その光景はまるで地獄絵図の様に背筋の凍りつく様だ。
たまらず倫子と一番弟子は声を合わせるように御経を唱え始めた。強力な霊気を放つ物
体は、皆、門扉からは離れ後退りしては行った。が、決してそれだけでその場から消える
事は絶対に無かった。しかし倫子にはちゃんとした策があった。結界にて霊が

ユタ

に力
を抑えられている限り、こちらに分がある。勿論、これは非常に強い霊媒師である倫子に
限られた話しだ。
「ガマに戻れ!」
倫子にはもはや除霊の困難な怨霊たちを成仏させる術は無い。彼女に今できるる事は、
第一の結界から抜け出た霊全てを再びガマへ戻す事くらい
――

「由美子、塩を撒きなさい!」
倫子が怒鳴る様にして一番弟子へそう発した。それから再び御経を唱え始める。一番弟
子の沼田由美子は言われたとおりに清められた塩をすかさず取り出し天へと目掛けて力強
く何回もばら撒いた。途端に怨霊たちはガマへと追いやられる。それを確認した倫子は由
美子と共に、結界線となる白い綱を両手で掴み入魂し続けた。これでおおよそ二日は持ち
堪えるだろう。後は知子を一刻も早く元へ戻した後、じっくり取り組んで結界を直せば良
い。
「由美子、後はよろしく頼む」
倫子はそう発した後、握っていた白い綱から手を離した。
「はい、分かりました。お気をつけて」
倫子は、第一弟子のいるこの場を後にし、除霊所の方へ急いだ。恐らく残された時間は
わずかしかない。霊媒師としてこれまで立ち向かって行った幾つのも経験が、頭の中をそ
う過った。
除霊所の入り口へ来た。瞬間、倫子とて未だ経験した事の無いとても強烈な何かが心臓
目掛けて非常に重く、重く、何重にも圧し掛かかった。
この霊気はこれまでの何よりも強く恐ろしい。やはりあれを使うしかない。
一瞬、ただならぬ圧迫感から来る酷い目眩で倒れかけた倫子は、そこから何とか意識を
正常に戻し、ある決意に満ちた目をしながらそう力強く言い聞かせた。
倫子が想像した以上に二番弟子達は服装がかなり乱れた状態。知子に取り付いた霊は彼
女の魂を連れ去る際、怨念のみ体内に残したらしい。恐らく知子を監禁室へ運んだ際にそ
の怨念は目を覚ましたのだろう。
「先生! こちらです!」
倫子の帰宅に気付いた弟子の一人が慌てた様子で発した。
倫子は監禁室のドアに設けられている覗き窓から中の様子を伺った。知子は監禁された
部屋の中で気が狂ったように素っ裸の状態で暴れていた。そして覗き窓から見る倫子の存
在に気付き、ドアへ “
ドーン

と何度か体当たりしてきた。
留守中の弟子達は電話越しから聞こえた倫子の言いつけ通りに、服はおろか部屋の中に
道具など何も無い状態で監禁していた。知子の口と後ろに回された腕には白い襷が巻かれ

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