愛するということ 第二章 17


倫子と美代子は時空の狭間に居た。
美代子は志津絵と一体化した時から意識を失ったままの状態だ。
志津絵の元へと帰った夫は、実は倫子であった。志津絵を成仏させるべく倫子の魂がそ
うした。 「彼女の夫は生きている」倫子はそう感じていた。しかし、探し出すまでの時間的
余裕が無かった。 「仕方が無かった」と言えばそこまでかも知れない。だが、この選択が後
に致命的な過ちとなり、自身のみならず娘二人にまで襲い掛かる悲劇を与える事になると
言うことに、この時彼女は気付いては居なかった。倫子は急いでいた。美代子の魂が目を
覚ます前に自身の元へと送り返さなければ命は無いに等しい。万が一途中で彼女が目を覚
ませば、倫子の行動全てが明るみとなり、その時点でこの魂は非常に恐ろしい悪霊と化す。
二人は元の世界へと戻った。
まず、倫子が先に姿を現しながら息を吹き返した。徹が目の前で唖然としている。次の
瞬間、美代子の姿が見え始めた。魂が元へと戻ればその時点で物体と魂の一体化は完了す
る。完了しなかった。徹の隣には誰かの存在が見えた。彼の父親である。倫子は瞬時に殺
気の様な物を肌で感じた。 ――
そんな、まさか! 倫子は神のお告げのような自身の能力に
て察した事実に驚愕した。しかし、もう既に時は遅かった。この世界へと完全体となるで
あろう美代子の全身から小さな稲妻のような物が幾つも放出し徹へと一気に襲い掛かった。
「徹さん! 嗚呼
――

稲妻へと化し襲い掛かる魂から美代子の声が遠く聞こえた。
全ては一瞬に近い出来事。
「どうしてこんな事に
……

なすすべなく唖然とした倫子が立ちすくんだまま言った。今、恐ろしい光を強制的にう
けた目の前に居る彼は明らかに別人だ。決して山田徹ではない。彼の背後から睨みつける
女性と共に、徹は倫子を恨むようにして殺意ある顔を向けている。しかし幸いにも、意識
的にはまだ行動を起こせる状態にはないようだ。彼は瞬きをすることなく硬直している。
倫子は顔をそらし隣に座る男へと目を合わせた。
「慶三さん、ですね?」
「はい、そうです。あの、これは一体
……

「貴方の息子と恋人に一昨日少し問題が起きまして
……
。それよりも貴方の魂が何故ここ
に? しかもこれは分裂して完全ではない
……
。もう一つがどこかへ消えている」
「どういう事でしょう?」
「理由はともかく、こちらへ訪れた貴方の魂は今、二つに分かれています」
「魂? この自分がですか?」
「ええ、そうです。そして貴方を見る限り、この魂は古い過去から招かれています。昭和
三十二年
……
。そうですね?」
倫子の問に対して慶三は唖然とし、一瞬返す言葉を失った。
「通常、貴方が体験したこの現象は、近く最期を迎えるごく一部の限られた生き物にのみ
神より与えられる物で、その特権のような現象によって人は何かを悟り行動するか、もし
くはそのまま結末を見届ける。貴方は何かをやり残し後悔をしている。恐らくもう一つの
魂はもう一方の世界へと辿り着いているはずです。この世界には二つの道があるんですよ」
倫子は慶三に、自身の定説と心霊現象、そして今回の事件について詳しく話した。
「先生。先ほどの『最期』という事に関してなんですが
……
。自分はこの年に倒れるとい
う事でしょうか?」
慶三は『死』という言葉を意識しない様、違う表現で倫子に質問した。
「残念ながら、光が目の前に存在した日に貴方は亡くなります」
倫子がそう発した時、慶三は天を仰ぎ、そしてため息と共に深く俯いた。
「自分は、馬鹿な男です。どちらの世界共にまっとう出来ず、迷惑をかけてしまうんです
ね。本当に情け無い」慶三は、悔しさを込上げる様にして言った。
「いいえ、慶三さんそれは違います。だって貴方は、まだもう一つの世界を見ていない。
そしてまた、もう一方の世界にて行動するには魂の一体化は必須です。とにかくこの場は
私に任せて貴方はもう一つの世界へ今すぐ行くべきです」
「しかし、どうやって
……

その時、倫子が慶三の後ろにある何かを確認したように見つめているのが分かった。慶
三は振り返った。そこには、光で出来たスクリーンの様な物が何時の間にか存在していた。
「どうか貴方の想いが最期に報われる事を願います」
倫子は優しく微笑みながらそう言った。

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