@原付バイクと風景画 2



@原付バイクと風景画 2

 幼少期の話に戻ろう。

 遥はとても優しくて明るい子。それでいてなんだかおっとりとした魅力もあったものだから、この子は大人になったらとてももてるでしょうね、と、母、咲子は思いもしたが、しかしながら苦労する子でもある。などと勘ぐっていた。
 夕張市はとても廃墟が多。すたれていたと言えばそこまでかもしれない。遥はそんな中で野花のように育った。炭鉱の町と言う事で、どこもかしこも、そんな華やかな佇まいではなく、どちらかといえばたくましさを痛感するような、ペンキ色も何もない灰色の壁ばかりだったが、だからこそ色彩の素晴らしさを、人々は大自然から習得した。
 炭鉱の町と言っても、それは昔々のはなしであって、今現在は稼働していないベルトコンベアが過去の存在の証をしているだけであったものだから、なんだか活気のない破たんした夕張市であった。今の財政を支えているのは紛れもなく夕張メロンという農業のみとなっており、散見された酪農は世代交代がうまくいかず、廃業は間もなくというところまで来ていた。
 遥の絵は非常にアンバランス。炭鉱町の灰色と、しかしながら、そのなかに独立してある鮮やかな色彩がとても素晴らしかった。それはまるで、黒い地獄に一厘と咲くコスモスのように、その世界観ははっきりと区別していた。それでいて近代的なアート。咲子は遥の絵を見るたびに目を見開く始末。なんてすばらしいのだろう、と。
 咲子は悩んでいた。亭主の犯罪は性的なもので、おそらくは、この天才少女の美貌にも手を伸ばすかもしれない。近親相姦というやつだ。それに、はたしてこの亭主は遥の父親としてふさわしいのかさえ悩む始末で、彼から逃れるには今が絶好のチャンスではないかと考え始めていた。その思いは必然的に面会の量を目減りさせて行っては、どんどん亭主から離れていった。
 考えた挙句、悩みに悩んだ結果、咲子は遥の才能のためにも遠い南の島逃亡することを心に決めた。こうしてこの母子家庭は沖縄県の宮古島へと越すこととなったわけだ。もちろん離婚は済ませていなかった。完全なる逃亡である。ほんとうならば、監獄されている間にけじめをつけたかった。離婚を済ませたかった。しかし、相手はかたくなに印鑑を押さないだろう。ましてや認め人がいない。いや、刑務所の人間か役所の人間にお願いすれば済む話かもしれなかったが、咲子は何だか億劫さを覚える始末で、また、病弱なことからごたごたは御免。
 咲子は宮古島の生活保護を受ける手続きを夕張市の職員にお願いし、病院の手配まで済ませてもらった。本当にありがたい話。
 母は、遥にうそをついた。北国は私の身体が付いていけないから。と。いや、しかしながら、それは本音で言ってもおかしくないことではあ
 遥は夕張を離れたくはなかった。お父さんにもう会えなくなるの? 彼女は訊いた。
 いいえ、遥。いつか大人になってお父さん探しがしたくなるはずだから、そのときはぜひ会いに行ってちょうだい。私の分も。私はもうこの先長くはない。貴女が高校生になるころまで持てばよいけれど、それも叶わないかもしれないのよ。いい? 遥。あなたの故郷は夕張。沖縄なんかじゃなくて夕張ですもの。いつか帰る時が必ず来るわ。だから大丈夫よ。安心してお母さんについてきてちょうだい。わかった?
 咲子はそういってから優しく微笑んで魅せた。それから遥を抱き寄せて温めるのであった。
https://www.amazon.co.jp/gp/product/B07CJZVVDQ/ref=dbs_a_def_rwt_bibl_vppi_i14

コメント

人気の投稿