@原付バイクと風景画 8


@原付バイクと風景画 8

果たして知らなかった。あたらしい世界とはいまだになれないものね。咲子はそう考えると、遥を連れて帰宅の途に就きたくなる。
 遥は、北海道から沖縄に来た経路など、なにひとつとて遠く薄れる一方で、産まれた場所に関して疑問を抱くようになっていた。はるかはどこからきたの?彼女は咲子にそんなぶっきらぼうに訊いたことがあった。咲子からははぐらされるばかりで、何一つ答えは返ってこなかった。
 はるかはおきなわにきて、それからほっかいどうにいて、それから……
 夏休みになるころ、そうつぶやいたことがあった。宮古島の同級生に生まれ故郷を聞かれたときの話だ。しかし、わからなかった。記憶から飛んでいた。薄れていた。
 どこかで聞き覚えがある。自分の生まれた町のことを。産婦人科を。三人親子でいたころの話を。
 遥はいつしか父親の存在すら消えてなくなりそうになっていった。それはとても危ういと言えばそこまでだったが、遥の父親は何しろ犯罪者であるからして、咲子はそんなこと考えなくていいのよ。と口癖のようにして発していた。でも、それでは筋が全く通らないではないか。咲子は遥に、北海道から沖縄に移住する際、いつかお父さんを探しなさいと言った。母のためにも会いなさいと。それが時間とともに変わった。只、それだけのはなし。しかし遥は父親の存在を完全に忘れる直前、確かにはっきりと自分は父親に会いたいと強く思った。あのとても優しかったお父さんに会いたいと願った。
 咲子は父親の写真をすべて捨てていた。なぜ? どうしてすてたの? 遥は思ったことがあった。咲子は父親が性犯罪者であることを言えなかった。恥ずかしい記憶と、叱責に満ちた思いが咲子の心の中を時間をかけて交錯した結果、咲子は遥にお父さんのことはもう忘れなさい。と言った。それが生まれて初めての親子喧嘩の原因。
 遥は小学生から絵の具を使って絵を描くようになっていた。画用紙は学校でいただいたものだ。彼女は特別、才能を認められていた。また、の絵に対する思いは本物だったものだから、学校は極力、助けを貸してくれた。ありがたかった。ありがとうございますと言った。
 宮古島はとても緑と青色がはっきりとした色彩を持つ島だった。ダイレクトでダイナミックで、遥はとにかくこの透明と紺碧を愛した。彼女は岬をよく描いていた。灯台が真っ白で、それでいて青い影を落とすそれはとても素晴らしいと思ったし、岩肌と草原とが、みごとに調和している光景に、テッポウユリまで自生している。正直、こんなに素晴らしい光景など見たこともなかった。遥はいつも心がうきうきとして最高の気持ち。


 冬の北風も忘れたようにしてやみ、春が訪れて、そして初夏をもう迎えているのではないのか? そう錯覚するほどに、今年の四月は咲子と遥にとってとにかく暑かった。それもそうだろう。何せ沖縄県と言っても最南端に近い島なのだから当然と言えばそこまで。
 遥はことしで小学二年に上がる。そう、この宮古島からまったくもってあたらしい学生生活を送るのである。まあ学生と言ってもまだ小学二年生だが、しかしながらもうすでに小学一年から学問は始まっていた。学生と言って何がおかしいのか、その返事すらかえっては来ないだろう。遥は立派な学生なのだ。
 彼女はまっさらの状態からこうしてみんなにあいさつしている。「おはようございます!
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