@原付バイクと風景画 15


@原付バイクと風景画 15

ったために、まさか、咲子の髪の毛が抗がん剤で無くなっていることなど気づきもしなかった。咲子は遥にさえ毛糸のニットをかぶって髪の毛が薄くなっていることを隠していたものだから、それ(髪の毛がないこと)を宮古島で知っているのは、しごく限られた話。咲子は、遥が里美先生と出かけている間に、遥宛ての手紙を書いていた。簡単な遺言状と言うやつだ。それに、咲子の生まれ故郷の住所や父親の実家などを綴っていた。もしもはきっと、もうすぐそこまで来ている。彼女はそう懸念していたものだから、事を急いでいた。咲子は自身の実家にも手紙を書いて送っていた。どうか、私に万が一のことがあったとすれば、その時は遥のことをよろしくお願いします。と。そういえば、児童相談所にも話しておいた方がいいわね。私が死んだら、一時的に遥が世話になると思うから。そんなことまで考えていた。里美先生へはそろそろ話しておかなければなるまいて――。咲子はそう決意したものだから、夕方、遥が里美先生と自転車で帰ってきたときには、「こんど、遥のいないところで、話でもしませんか?」と、遥に聞こえないようにして里美に発していた。先生は承知してくれた。
 翌週の休日は、絵を描くことをしなかった。遥ちゃん、たまには剛君と二人で遊んでらっしゃい。先生は今日、遥ちゃんのお母さんとお話合いがあるから。里美は遥にそう言づけておいた。団地の一室は、咲子と里美先生だけになった。二人で遥の絵の事やら学校の事などの話し合いを色々とした。そして、さいごに咲子から余命について相談を受けると、里美は私が面倒見ます。と返した。咲子はとてもうれしかったし、ありがたかった。
「それでは、遺言状に、そう書いてよろしいですか?」
 咲子が訊く。
「もちろんです。でないと、遥ちゃんは養護施設に入れられちゃうので、そう書いておいてください。そのほうが私も遥ちゃんを養子として手続きがしやすいですし」
 やさしく微笑みながら里美は咲子にそう返した。
「たすかります。本当にありがとうございます。こんなに迷惑をおかけして申し訳ございません。どうぞ遥のことをよろしくお願いします」
 涙ながらに咲子は言った。そっか……。わたし、はるかちゃんの義母になるのね……。里美は何だか感慨深く、そしてまた、遥の画家としての運命のようなものを感じた。その運命に私が関係するなんてとても光栄だわ。ふと、ぽつっと吐息を吐いてから、そんなことを考えたりもした。しかし、なんということだろう。遥ちゃんのお母さんが、彼女の晴れ舞台を見ることもなく亡くなってしまうなんて。とても信じられないわ――。里美先生は教え子の迫りくる破壊的なる現実を思った。遥ちゃんはそれに耐えられるかしら? 受け入れることが出来るかしら? そして、それでも前に進むことができるかしら? いろんなことが里美にとって不安だらけ。
 ――嗚呼、それでもこうして彼女を救ってあげたい。
 里美は何だか涙があふれてきた。体の震えとともに、だ。彼女はとても恐ろしかったし、怖かった。心配。だけども、遥ちゃんは私が立派な画家にしてみせます。そう最後に発した咲子との約束だけは、決して裏切りはしないと心に誓った。翌週の日曜日にな
 遥はこの日から油絵も描いてみることになったために、服装は汚れても大丈夫な古着を着けてくるように里美先生から言われていた。だがしかし、遥はもとから貧乏に染まっていたために、咲子は何を着て行ってもかまわないと彼女に話していた。遥には一張羅がなかったのだ。沖縄へ持ってきた着替えはすべてワンピースだけ。遥はとてもワンピースの似合う子であったために、剛はその容姿に対してほれぼれとしたもの。なにせ宮古島には

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