@原付バイクと風景画 16


@原付バイクと風景画 16

こんなきれいな子がいなかったために、剛おろか男子も女子もみんながみんな彼女をビーナスに感じた。剛ははやいところ遥を自分の彼女にしたかったし、だからといってその方法を知っている年ごろでもなく交際と言う言葉の意味すら知らなかったので心の内はやきもきしたものだ。じつは、遥も剛君のことをとても気になっていた。彼女も惚れていたのだ。相思相愛と言う言葉を使うにはまだ早すぎた年齢。でも、それでも、二人は夢中でおとぎの国を模索していた。会話をしているとき、顔を眺めているとき、絵を描いているとき、いろんな場面で遥と剛は互いを真剣に思った。
 遥の絵はまるで巧み。その構成から色使いまで、里美は彼女の天才ぶりに毎回ながら驚愕とした。なんて完璧なる天才少女なのでしょう――。里美先生は今日もそう思いながら遥のスケッチを確認した。
 あれから二か月。絵画コンクールに出す予定の作品は、順調に描き出し始めていた。夏休み入りは、もう片指で数えるだけになったころ。教室の外は非常にむしむしとしており、とてもとても暑かった。短縮時間表はとうぜんあって、この日も下校時間は早かったものだから、遥と剛は仲良く帰る途中でいつものようにして川遊びに寄り道なんかしたりもした。遥の母である咲子の様態は深刻だったが、今すぐに危篤となるわけにもいかず、彼女はなんとか今年いっぱい持てばよいかなとは考えてはいたが、実際のところはもう少し長生きがしたかったために、とにかく体調管理には神経を使っていた。里美先生はあの日の後日、咲子から遺言状をひそかに受け取っていた。中身は開いて確認してはいないが、おおよそのことは見当がつく。おそらくほとんどが相談事の時に話した通りのことが書かれているのだろうなと思った。遥が剛君と別れて部屋に着くと、咲子はやや苦しそうにしながらも、なんとか歩いておかえりなさいを言った。その光景が遥にはなんだか悲しく映っていた。しかし、なぜ自分は悲しく思うのか? 末期がんのことを知らない遥にはとうてい分からなかった。
 一学期の終業式。その日の帰りにくばられた紅白のカルカンという和風ケーキ菓子はとにかくおいしかったし、こんなものは生まれて初めての食感だったものだから、遥と剛は口をそろえておいしい!と、ほころんだ。里美先生は夏休みも学校に出勤しなければならず、やはり日曜日しか絵を一緒に書く機会はなかったが、それでも遥はとてもうれしかったし、咲子にとってはとてもありがたかった。夏休みはとにかく長い休みだ。宮古島も沖縄本島と同じく、製糖工場がフル稼働していて、そのそばを通ると、肥料界のケーキと言うキビの搾りかすが発酵して臭くなった香りがした。遥と剛はそれを我慢しながら工場内へと入り込み、職員たちから黒砂糖をもらっていた。
「黒砂糖、おいしいだろ?」
 剛が訊く。
「うん、おいしい!」
「遥の北海道はこんなのなかっただろ?」
「どうしてわかるの?」
「だって、サトウキビは沖縄だけだってオジー(おじいちゃん)が言ってたもん」
「へぇ……
「な。なんだよぅ?」
「けっこうべんきょうしてるんだね?」
「ま、まあな!」
「うふふ

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