@原付バイクと風景画 18


@原付バイクと風景画 18

 遥はどうしてよいのか分からず、あたふたと路頭に迷っている。それに対して息切れした咲子は一言伝えた。それが最後の声。会話。
は、はるか……。おかあさん、ね、まもなくだから……。里美先生にはなしして……。は、はるか……、はるか、げんきで……げんきに、い、いきるのよ……”
 ごほごほごほ――! と、咲子はうなだれて倒れた。痙攣しているようだった。遥はたまらず、横になった咲子に上から抱きついた。
おかあさぁん! いやぁ――
 涙があふれる。なぜだろうか? 混乱した遥には分からなかった。
おかあさん! おかあさん! おかあさぁん!
 やがて多量涙は頬を伝った。それは咲子も同じ。
 咲子は目を見開いた。何かこう、覚醒したかのように。しかし、それは覚醒ではなくて、本当の本物の死期が来たと言うあかしのようなものであった。遥はそれを無意識に悟ると、只々、嗚呼ぁ! と泣き叫ぶのであった。母、咲子は死んだ。
 ひっぐ、ひっぐ、ひっぐ……。遥は、亡き母親の横で泣きつづけた。やがては日が暮れる。夜になった。
 ひっぐ、ひっぐ、ひっぐ……。遥は泣きやんでなかった。最愛の母、咲子はもうこの世にはいない。もう戻っては来ないことを悟れば悟るほどに、今ある現実が信じられなかった。受け入れたくはなかった。だけども彼女は、何かわけのわからなくなった蛙のように、蝉のように、コオロギのようでいて、カラスのような、それでいて、子猫のように、人間ではなく、動物としてしゃっくりを繰り返し続けた。泣き続けた。涙は何故だか止まらなかった。やがて、遥は、衰弱した。涙が枯れた瞬間。ふと、空腹なのを思い出したかのように、彼女は冷蔵庫の方へふらりと向かった。つめたい麦茶が入っている。それをラッパ飲みで口からあふれるのも構わず、がばがばと飲み干した。洋服はそれで水に浸かったようにして濡れていた。こんどは、おもむろに昨日の余り物である皿に載ったミートスパゲッティを、ラップをはがしながら冷蔵庫から取り出した。それには昨日使ったフォークがそのまんま一緒だったために、台所からさじを持ち出すことはしなかった。母親のところへ戻る。
「おかあさん、おかあさんのだいすきなスパゲティーですよ。はあい、あぁんして。いっしょにたべましょうねぇ
 遥は笑顔になってそう言った。フォークにスパゲッティをからめて、母、咲子の開いた口元へと運ぶ。「なぜ? 何故食べてくれないの? おかあさん。なぜ……?」遥はまたもや涙があふれてきた。水分を補給したからだ。また一つ泣けるは飲んでいたからだ。浴びるようにがぶ飲みしたからだ。無論、それだけではなかった。
 遥はまた泣いた。しくしくと泣いた。電気も何もついてない暗闇の中で泣いた。死んだおかあさんの横で泣いたのだ。これに何以上の悲しみがあると言うのか? これ以上の悲しみなどなかった。存在しなかった。遥はうなだれた。うっうっうっ……、と。母はこの身だけを残して魂はあの世へと旅立っている。もはや遥は絶望。破壊の先に見えた絶望。むしろ絶望のさきの破壊のようなものでもあった。彼女は精神が破壊したように脳みそがぐちゃぐちゃになった。なにがどうなのかさえ判断が付かない極限の中で、一生懸命に泣いていた。泣いていた。お母さんはもう帰ってこないの? 遥は地団太にしそうになった。もがきたかった。暴れたかった。発狂したかった。やがて朝になった。夜が明けたのだ。明けてしまった。遥はいつのまにか寝ていた。母のそばで、母の胸元に抱きつくようにし

コメント

人気の投稿