@原付バイクと風景画 5

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のだから、とにかくこの天才少女に対して驚愕した。実はいうと、里美先生も絵に関してはそれ相当の技術を持っていて、なんと美大出身の先生だったものだから、遥ちゃんには絵の講師が必要だと、そして、それは自分がすればいい。この子の才能を見た時、里美先生はそう思っていた。アート調の絵も良いけれど、この子には油絵をおしえておく必要がある。何事にも基本が大事だから。里美はそう思い、なるべく日曜日は遥の隣で油絵を描くことにした。まずは油絵に興味を持ってもらう必要があったからだ。

「せんせい、先生って絵が上手ですね!」

「あら? 上手って言葉覚えたのね? うふふ

 遥は里美先生の絵をまじまじと見つめた。

「そうだ――!」

 言って遥は水彩画に水を溶いていない絵の具を色濃く塗りつけた。油絵の真似事。

「せんせい、これでいいんですか?」

「うふふ そうね、それでもいいけれど、でもね、遥ちゃん。そもそも絵の具の種類が違うのよ。私が使っているのは油性で、あなたのは水性なの」

「油性? 水性?」

「まあいいわ。今度、詳しく基礎から教えてあげるわね。今日はそれ(その方法)で書いてみて」

「はい!」

 遥ちゃんと里美先生は思い思いの絵を描いた。それは素晴らしい休日だ。

 遥はときどき、先生の絵をのぞき見する。里美も同じで遥ちゃんの絵を時々目視した。

 せんせいって、やっぱり絵が上手だな。いいなぁ――

 遥ちゃんはやっぱり絵の才能が天才的だわ。うらやましい――

 昼食は里美先生が用意したポークおにぎりを食べた。里美が沖縄で一番気に入っている料理と言えばいいのか、おにぎり法と言えばいいのか、ポークランチョンミートのスパムを卵焼きとともに海苔とご飯で挟んだその大きなおにぎりは、あっというまに二人は平らげて無くなった。それ位に美味しかった。この場所にふさわしかった。

 今日は朝からきているので昼食後は絵を描くことをしなかった。芸術とは集中力との勝負でもあるのである。それを里美はよく知っていた。午後は里美先生の住むアパートで遥はお菓子を食べていた。紅茶も用意されたそのお菓子は、東京から取り寄せたものばかりで、遥は何だかその味に肌がぴたりと合った。最後に食べたのがぼんたん飴で、北海道で食べて以来の代物だったものだから、遥は懐かしいのと美味しいのとで、口の中は唾液でいっぱいにあふれた。

「それじゃ、遥ちゃん。おうちまで送ってあげるわ」

 昼の四時になったころのはなし。里美は遥と会話に夢中になっていて、気が付けばあっという間だと思うほどに、時間はとうに夕刻をさしていた。夕刻と言っても本格的な夕方は八時に日没で七時ころなのだが、遥ちゃんのお母さんが心配するだろうと思い、また、自身もやることがあったので四時に帰すことにしたわけだ。遥はさびしそうにして見せたが、それも母親の顔を見るまでのはなし。里美は自転車で遥を送った。

「じゃあね、遥ちゃん」

「はい!」

「明日の学校は遅刻しちゃだめよ」

「はい!」

 二人は別れた。

「おかえりなさい」

 咲子は夕飯の支度をしている。こんやはケチャップソースのハンバーグ。もちろん冷凍食品ではない。立派な手作り。咲子のハンバーグはとにかくおいしくて遥にとってごちそうなのだが、そんな滅多に食べることができなかった。それに関して咲子は只々申し訳ない気持ちでいっぱい。遥はお風呂を入った後も絵の続きを描いていた。今日ならった手法を用いてだ。それを咲子は確認すると、ああなるほど。油絵を習ったのね。と、すぐにわかった。消灯。次の日の朝にな

 遥が近所の子らと登校する。途中、枝道から剛と出くわした。一緒に歩く。

「おはよう!」

 剛が言う。遥はそのままそっくり同じ言葉を返した。

「な、な、な、昨日の休み、どこ行った?」

「うん、昨日は里美先生といっしょに、海見に行ってた」

「へえ、里美先生と?」

「うん!」

「どうして?」

「遥、絵を描いているの。だから」

「あっ! なるほど! そういや、里美先生、絵が上手いもんな。きのう、絵を習ってたってことだろ? ちがうか?」

「そうだよ、習ってた」

「遥ってさ、絵描けるのか?」

「うん!」

「どれくらいうまい?」

「わかんない。先生とか、お母さんとか、よく褒めるけど」

「上手いってことじゃん!」

「そうなの?」

「そうだよ! 上手いんだよ!」

「えへへ

 学校に着いた。それぞれの机に座る。朝の会が始まるまでの間、剛は一方的に遥へいろんなことをくっちゃべった。同級生の事、家族の事、先生の事。遥はそんな彼のはなし興味深げ聞いていた。初登校後からは朝の会の前にクラスの子らが遥のもとに集まることはなかったが、皆、剛の行動を観察していた。朝の会になった。そして終わる。

 先生は黒板横にある自身用の席に座った。もちろん机も用意されていた。遥は席を立って先生のところへと歩み寄った。里美先生! と。

「里美先生、きのうはありがとうございました!」

「あら、礼儀正しい子ね。どういたしまして。うふふ

「先生、今度から遥も先生と同じ絵具で絵を描きたい!」

「うふふ そうね。でもね、そのまえに宮古島に滞在している画家の個展に行きましょう」

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