原付バイクと風景画 12

 原付バイクと風景画 12

けれど、そう力む必要もまた不必要でもあるものね。その力加減が難しいが、とにかく自然に生きましょう。生きてゆきなさい。と、テレパシーで贈る事にしていた。それに気が付くのは、遥ちゃんが大人になってからでしょうね。そう感じながら。

 翌週の事だ。宮古小学校の事務方に一本の電話が入った。はい、もしもし。沖縄県立宮古小学校です。はい、ええ? はい! はい――! そして、二年生、兒玉遥の担任教師である金城里美は教頭室に呼び出しを食らう。はて、なんだろう? 不安をよそに廊下から見えるグラウンドでは球技遊びに熱狂する生徒らが奇声や歓喜と言った声をあらたげていた。失礼します。教頭室へ入る。ああ、里美先生。じつはいうとね――。それが全国小学生絵画コンクール文部大臣賞受賞の知らせを聞いた瞬間。里美は飛び跳ねるようにして喜んだ。やっぱり――! そう、最初からこうなることは予測できたほどに、あの想像絵画は素晴らしい出来。この知らせを受けたのは、実はいうと放課後のはなしで、遥は職員室で宿題などを済ませてい。職員室には遥ちゃんのために特別勉強机が用意されていた。里美は急いで教頭室から職員室に戻る。すると、遥ちゃんはすでにスケッチを楽しんでいた。今日は何を描いているのでしょうね? そんなことは考える余裕がなかった。とにかく心の中は文部大臣賞のことでいっぱい。

――はるかちゃん!」

「はい?」

 そして伝える。凄い賞を取ったわよ、と。遥にとって文部大臣賞とはどれくらい凄いのか知るわけもなかったために、里美先生はあえてそれを伏せて、凄い賞と言った。のちのち東京の文部省にて贈呈式を受けるわけだが、遥ちゃんはそれまでどれくらいに凄いのかちんぷんかんぷんだったものだから、後日、沖縄タイムスに自身の写真が載ったときはびっくりとした。賞状も本物の金箔が施されており上等な代物。副賞に盾とトロフィー、賞金までついた。遠征費はすべて国持ちだったものだから、そんなに大してお金を使うことが無かった。強いて言えば服代くらいのもの。そのときはマルエーで上等の服を支店長からプレゼントされた。新聞へ載った後は大変な騒ぎ。それは宮古島中が大はしゃぎするほどの規模だったものだから、やれ祝いだ祝いだ! と、連日のように学校やら住まいやら公民館やらで祝いの行事が行われた。それに対して遥はほとほと疲れが溜まって居たが、本当にうれしかったし、なんだかお母さんが認められたような気持になって、感無量となり泣き出してしまうほど。

 ――おかあさん。はるか、やったよ。

 遥は人知れず心の中でそうつぶやいていた。

 嗚呼、おかあさん、おかあさん。はるかね、賞をとったの。えへへ、すごいでしょ! はるかはてっきりケーキの味のするイチゴののったやつとか、カルカンっていう味がするのかなって思ったけど、ちがったみたい。それでね、おかあさん。賞状もらったの。とってもおおきい紙だよ。絵が書けるくらいの。その画用紙いっぱいに字が書かれてあって、むずかしいけど、里美先生に教えてもらってわかるようになった。それでね、はるかね、おこづかいもらったの! すごいでしょ! こづかいの残りはケーキ買ってくれたんだ。とってもおいしいケーキ。それでそれで、毎日ケーキがあるの。すてき。でね、おかあさん。おかあさんのぶんもかっておきました。はるかが里美先生に言ったの。おかあさんのもって。だからたいせつにたべてください! はるかより。

 正月を越えて、冬休みも越えて、三学期が始まった。遥は幾分、元気を取り戻したかの様子。やはりあの賞が遥ちゃんに力を与えたのだ。その様子を間近で見ていた里美は、なんだか安堵感を浮かべる。よかった。ほんとうによかった。と。三学期はあっという間に終わる。この時点で遥はもう三年生みたいなものだわねと里美は思った。そうね、予定通り、終業式の後に来る春休みには北海道へ旅行に行きましょう。納骨を済まさないとね。これから毎年北海道へ行くことに。楽しみではあるけれど、そんなことを言っちゃいけないわ。遥ちゃんにとっては悲しい思い出が詰まっているのだから。嗚呼、なんてかわいそうな子なのかしら。でもね、それでも遥ちゃんはこうして大人になってゆく。それはだれにも止められなくて、遥ちゃん自身がとめることも許されない。この子は容姿がきれいだから、お母さんは男関係についてとっても心配していたけれど、なんとかなるものだものね。でもこれ以上、遥ちゃんに不幸が起きないようにしなければ。里美はそう思いを巡らせていた。

 剛と遥は放課後一緒の時があった遥ちゃんが職員室で宿題をするようになってからというもの、剛君はいつものように放課後一緒になることをためらっていたからである。遠慮していた。それなものだから、絵画の受賞知らせが来る二学期が終わるころからは全くと言ってよいほど放課後、顔を合わせていなかった。それが三学期になってから、なにか遥ちゃんが離れていったような喪失感が剛へと強い重しになり、次第に焦る感情へと変貌を遂げて襲い掛かっていたものだから、厚君は少しでもよい。遥と放課後一緒にならなきゃ。そんな思いだったのだ。遥ちゃんはその気持ちをなんとなく察したようで、職員室で剛と一緒に絵を描いたりしていた。校庭は北風が吹きつけていて寒かった為に、職員室のみで放課後は一緒。

 遥は本当のところ、孤独になりたかった。誰とも会話を交わしたくはなかった。孤立してもいいとさえ思ったし、どうでもよかった。だけども、せっかくみんなが元気にしてあげようとして頑張っているのに、遥ちゃんが笑顔にならずにはいられなかった。とってもさびしかったけれど、つらかったけれど、遥ちゃんはみんなのためにも作り笑いを見せた。その表情はあからさまにして偽物だと同級生みんなは感づいてはいたが、誰一人としてそれを口にする奴などいなかった。ほんとうにみんな優し

 剛は職員室で絵を描くとき、必ず遥をモデルにした。遥だけを描きつづけた。初恋の相手だ。それが当然と言えばそこまで。そしてまた、羞恥心もなくそれが堂々とできた剛は、本当に頼りになる男児。曇りのない子供。児童。遥はといえば、リンゴのスケッチやバナナなどの果物といった基本的なものを描いた。それを見て剛君は、うまいなぁ……。とため息をこぼす。剛はときどき遥に自身のスケッチを見せた。遥はとても喜んだけれど、彼としてはもう少し絵が上手になりたかったし、遥を上手く表現できないことで、非常に地団太した。遥ちゃんはそれを察すると、剛の絵をとてもよく褒めてあげた。こんなにかわいくないよ、でもありがとう。そう言葉を交わしたりなんかした。

「遥、俺の絵も描いてくれよ!」

 剛君はたまらず発した。自分の顔を見つめてほしかった。

「うん、いいよ」

 遥に承知された剛はそれはもうとにかく喜んだ。

 ふたりは向かい合って絵を描きあった。ときどき目が合う。とても恥ずかしかった。だ

コメント