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愛するということ 最終話特大号

   正樹は戸惑いながらも訊いてる事が分からないとでも言いたげに答えた。彼の頭の中は今、正に動転していた。 「だから、お前の気持ちはどうなんだよ」  苛立ちを見せた態度で智彦は言った。 「ああ、そうだな …… 」   正樹は正気へと戻り、冷静に言葉を探した。そして思った。   前にも同じ様なことを考えたが、友情が日増しに掛替えのない物となっている今、智彦の思いを裏切るわけにはいかない。ましてやこの世界の彼は、恵の事を正樹よりもずっと昔から想っていた。正樹はそれを思うと、智彦に対してとても哀れにも似た感情にさえなる。   やはり、身を引こう ―― 。   正樹は自分が恵と付き合うことで彼女をまたしても不幸になどしたくはない。自分に縁がないのならば、世界を変える大罪は、やはり全てを良からぬ方向へと未来を進ませるだけだろう。いや、その前に何もかもが消滅してしまう。   正樹は、たとえばもう一つとも言うべき第三の現実的世界があったとして、恵に再び出会い、関係を築いただろうと信じながらも、しかし、その三つある全ての世界の内一つだけは、少し離れた場所からそっと彼女を見守る愛し方もあるのだと、彼は心にそう言い聞かせた。   正樹は今、遠く上空に見える雲の流れに目を細めた。只、自然 に、 風に流され場所へと向かうその物体は、まるで人生における宿命を思わせた。   正樹は、一つ溜息を隠しながらもした後、智彦へ向いた。 「お前とならきっと良い方向に行くと思う。俺が言えることはそれだけだよ。大丈夫、全ては上手く行くさ」  発せられたその言葉は、少しばかり涙混じり に 揺らいだ。 「それじゃ、協力してくれるか ? 」  智彦は笑顔になって訊いた。 「ああ、勿論。それで、俺は何をすれば良いんだ ? 」  苦痛に満ち溢れながらもそれを押し殺し、やや無感情的に落ち着いた調子で正樹は 訊く 。   智彦が正樹に寄ってきた。彼はまるで誰にも聞かれてはならない様に小声で「実はな、あいつに気持ちを探って欲しいんだ。俺の事どう思っているのか訊いてみて欲しい。それでな、その答え次第で最終的に告白するかどうか決めようと思ってる」と、話した。 「そうか …… 」  言って正樹はもう一つの世界の自分を思い出した。   そう言えば、恵と関係を持つ前、智彦に相談しようとしていた事があった。それがこの話だ。世界はやはり

原付バイクと風景画 13

 原付バイクと風景画 13

けれど、剛君は目をそらすことをしなかった。遥も同じで見つめた。互い心の世界へと誘われる。そこはとても素敵な国だ。泉が溢れ、芝が生い茂り、魚たちも動物たちも遥と剛に好意的。遥は立ち上がって傍にいる仔馬の首筋をやさしく撫でてあげる。仔馬はとても気持ちよさそうに目を泳がせた。いま、遥と剛は素っ裸だ。一糸まとわぬヌーディストである。それに対し二人は何も言わなかった。まるで最初逢った時から裸であったかのように隠し事など何もなかった。互いの恥部の味を知っているほどの仲だ。陰部は恥ずかしそうにしょっぱかった。ヴァージンの味。童貞の味だった。いれて……。あつしくん。ああ……、はるか。その先は、まるで光が完全支配したような真っ白。三原色の満ちた白だ。ふと、我に返る。遥と剛は見つめたままで、満足そうな笑みを浮かべていた。そして、とうとう三学期終業式の日が来た。

 剛は遥と学級が終わるのかと思うと心がキュッとして苦しかったし、それは遥も同じようなもの。新年度の三年生からは学級が違うのかどうかが気がかりで仕方がなかった。しかしながら里美先生はそのことをちゃんと把握しており、また、学校側もそれを承知していたかのように、転校生の遥ちゃんに対しては待遇扱い。つまりは三年生になってもクラスメイトと先生は同じ。それについて里美は遥ちゃんと剛君には内緒にしておいた。まあ春休みにでも話せばよいかしらね。そんな気持ち。とにかくいま大事なのは春休みに北海道へ納骨を済ましに行くこと。そればかり考えていたものだから、里美は学校と家庭とで準備に忙しかった。先生というものはなかなかにして定時で帰れない。それが旅支度の時間を遅らせた。どうしようもなかった。だけれど遥ちゃんと剛君をあまり待たすこともできないために、なるべくは十七時半には学校を後にするようにはしていた。

 春休みは一週間しかない。そのあいだに出来ることはしごく限られていたものだから、里美と遥は休み入りの日にすぐ那覇空港経由で北海道へと飛んだ。乗継はとにかく草臥れたし搭乗時間も長かったものだから、ほとほとお尻が痛くなっていた。いや、凝ったようになっていた。本物の旅疲れというやつだ。北海道に着いても忙しかった。ホテルまでの乗り物はタクシーを利用した。札幌時計台近くのホテル。大浴場がとにかく気持ちよかったし、なによりも食べ物が良かった。

 三月下旬の札幌はまだ雪が積もっており、その世界はまるで白銀。里美と遥ちゃんは翌朝、時計台で記念写真を撮ってから、あらかじめ連絡していた札幌市内の霊園へと向かった。そして本堂へと納骨を済ませた。本堂へとは金銭的な理由。とても破格的に安かった管理費は遥ちゃんが社会人になるまでの間、里美が支払う事になっていた。

「せんせい、もうはるか、お母さんに会えなくなっちゃうの?」

「いいえ、来年のお彼岸にまた来ましょうね。その時までの我慢よ」

「おひがんって? お彼岸っていつなの?」

「ちょうどいま時期よ。毎年、春休みにここで会えるわ。心配しないでね」

「うん……

 二人はホテルへと戻った。きょうあすまで泊り込んで、あさって北海道を離れる。今日は旅疲れを癒して明日はいよいよ観光だ。何処に行くかは決めていなかった。雪も積もっているし、郊外の農村はむりだろう。北海道は観光地が離れすぎているのだ。やはり冬は移動が限られるわね。里美はふとそう思った。あしたは札幌市内を隅々まで観光しましょう。そうね、それが一番だわ。札幌市街だけと言っても、ものすごい数のスポットがある。特に食事に関するものと言えばきりがなかった。ラーメン横丁にジンギスカン料理店。それに二条市場。大人だけで行けばサッポロビール園にアサヒビール園がある。夏に行けば公園めぐりもまた楽しい。次の日になった。

 里美は時間を有意義に使おうと決め込んでいたために、遥ちゃんには申し訳ないけれど、彼女を振り回すようにして札幌市内のあちこちを観光して回った。気が付けばとっくに夕刻。今日という日は本当に楽しめた。昨日の重たさが晴れたようにして空は快晴。今、空は赤紫に焼けている。この時間帯に遥ちゃんと里美は札幌市内の観光を終え、ご機嫌なままでホテルへと戻った。今日は楽しめたわね、遥ちゃん。うん! 里美はなんだか安どの色を出さずにはいられなかったものだから、それは相当な軽快さ。しゃべる言葉、ゼスチャー、その何もかもがオーバーリアクション。遥ちゃんの笑顔と、うん!という言葉がとてもうれしかった。

 ホテルで夕食は取らなかった。出たとしても、それを食えるほど腹に余裕がなかった。今日の観光はほとんどが食べ歩きだったものだから、ほとほと胃袋は疲れ果ててしまっていた。今日はあれやこれやと一杯食べたわね……。里美は遥ちゃんと大浴場の露天ぶろにつかりながら、ふと、心に呟いた。一方の遥は、まだ子供なものだから熱湯になじまず完全のぼせてしまっており、先生、先に――。と、シャワーで水浴びをしたのち大浴場を後にした。

 翌日の朝、ホテルのチェックアウトを済ませる。朝食はホテルではなくて空港のレストランで取ることになっていた。レストランと言っても喫茶店のような作りのそれは、軽食程度の物しか品揃えはなかった。勿論それを取ると言う事ではなくて、モーニングセットを注文するわけだが、昨日の胃袋加減と異なったものだから、幾分それだけでは物足りなさを二人は感じた。飛行機に搭乗する。

 沖縄本島経由で宮古島空港に着くと早くも夏の香りが漂っていた。初夏真っ盛りだ。その気温の差にも遥ちゃんと里美は旅疲れを一気に感じた。住まいへと戻るころには、時刻は夕方になっていた。とはいえ、宮古島における夏の日没は十九時ころと遅かったために、この時間である十五時はじっさいのところ夕方でも何でもなかった。痛い日差しが肌を焼き付けて強かった。

「はるかちゃん、あしたね、大事な話があるのよ」

「だいじなはなし? なんですか?」

「とっても大事な話。遺言状と言ってね、おかあさん宛から遥ちゃんに手紙があるのよ。遥ちゃんのお母さんは遥ちゃんに話しておかなければならないことがたくさんあるみたいなの。それを私が預かってるのよ。あした一緒に読みましょうね」

「うん……

「いいこね。だいじょうぶよ。変な事は書かれていないから」

「へんなことって……。先生はもう見たの?」

「いちおうね。前もって確認だけしておきました」

「うん……

 こんやの夕食は旅疲れのために総菜屋ののり弁当。のり弁当と言っても田舎のそれは量が半端なく多かったし、入っている品々も豪華そのもの。それを里美と遥ちゃんは、ゆっくりとゆっくりと平らげた。ごちそうさまでした。二人で手を合わす。それからふたりで

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