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愛するということ 最終話特大号

   正樹は戸惑いながらも訊いてる事が分からないとでも言いたげに答えた。彼の頭の中は今、正に動転していた。 「だから、お前の気持ちはどうなんだよ」  苛立ちを見せた態度で智彦は言った。 「ああ、そうだな …… 」   正樹は正気へと戻り、冷静に言葉を探した。そして思った。   前にも同じ様なことを考えたが、友情が日増しに掛替えのない物となっている今、智彦の思いを裏切るわけにはいかない。ましてやこの世界の彼は、恵の事を正樹よりもずっと昔から想っていた。正樹はそれを思うと、智彦に対してとても哀れにも似た感情にさえなる。   やはり、身を引こう ―― 。   正樹は自分が恵と付き合うことで彼女をまたしても不幸になどしたくはない。自分に縁がないのならば、世界を変える大罪は、やはり全てを良からぬ方向へと未来を進ませるだけだろう。いや、その前に何もかもが消滅してしまう。   正樹は、たとえばもう一つとも言うべき第三の現実的世界があったとして、恵に再び出会い、関係を築いただろうと信じながらも、しかし、その三つある全ての世界の内一つだけは、少し離れた場所からそっと彼女を見守る愛し方もあるのだと、彼は心にそう言い聞かせた。   正樹は今、遠く上空に見える雲の流れに目を細めた。只、自然 に、 風に流され場所へと向かうその物体は、まるで人生における宿命を思わせた。   正樹は、一つ溜息を隠しながらもした後、智彦へ向いた。 「お前とならきっと良い方向に行くと思う。俺が言えることはそれだけだよ。大丈夫、全ては上手く行くさ」  発せられたその言葉は、少しばかり涙混じり に 揺らいだ。 「それじゃ、協力してくれるか ? 」  智彦は笑顔になって訊いた。 「ああ、勿論。それで、俺は何をすれば良いんだ ? 」  苦痛に満ち溢れながらもそれを押し殺し、やや無感情的に落ち着いた調子で正樹は 訊く 。   智彦が正樹に寄ってきた。彼はまるで誰にも聞かれてはならない様に小声で「実はな、あいつに気持ちを探って欲しいんだ。俺の事どう思っているのか訊いてみて欲しい。それでな、その答え次第で最終的に告白するかどうか決めようと思ってる」と、話した。 「そうか …… 」  言って正樹はもう一つの世界の自分を思い出した。   そう言えば、恵と関係を持つ前、智彦に相談しようとしていた事があった。それがこの話だ。世界はやはり

原付バイクと風景画 19

 原付バイクと風景画 19

を感じた。なぜだろう? ひとしきりに考える。答えは分からなかった。いったい、わたしは……。いつのまにか未来がなにかこう、いびつな形に見え隠れするようになっていた。しかたがなかった。そう言う人生を歩んできたのだから不安になることは当然のことである。しかし、遥は歩んだ。黙々と、進んだ。そして高校卒業という日を迎えた。

 

 

 進学先の東京芸術大学は正門からして絵になった。

 毎朝、日の丸が掲げられたこの門は、なんだか昭和初期を感じるようでいてレトロ。それでいて何処かこう哀愁を漂わせたようなエレガントさがある。遥はこの門をくぐるたびに、なんだか異世界へとたどり着いたような気がしていた。

 彼女は美術学部の絵画部。これまでにデザイナーだとかいろいろ少女期に言われていたが、遥に迷いというものはなかったものだから、根回しをした斉藤のぶこし氏は安どの表情を浮かべた。のぶこし氏とは入試前に会っていた。遥は学校側からの推薦入学であったのだが、裏ではきっちりと大きく動いていた。とにかくこの天才少女を腐らせまいと、文部省からもひそかに伝手があった。彼女は推薦入学だが、いちおう形だけの入試は行った。大学側からしてみれば面接試験(面会)だけが目的みたいなもの。

「あなた、英語分かるでしょ?」

 クラスメイトの女性一人が訊いた。

 遥は容姿が美顔のためにハーフだと勘違いされての発言。

「いいえ、英語は単語単語しかできなくて、思ったほど得意ではないのよ」

「そう……。あっ、でもね。留学制度でいちどヨーロッパに行くはずだから、英語だけではなくて、フランス語も覚えなきゃ意味ないけど。科目は大事よ」

 学食のブッフェは非常に美味。学業に関してひとつ注文があるとすれば、苦手の外国語教科のみだったものだから、遥は毎日帰宅後、リスニングをしていた。本当は駅前留学だとかしたかったのだが、あまり外国人をよく思っていないお婆ちゃんが許可してくれなかった。それなら自分で稼いでやりなさい。と、口をゆがめて発していた。無論、留学など、とんでもない話。まるで箱入り娘のようにこれまで面倒を見てきたお婆ちゃんにとって、自分の目の届かない場所に遥を置くと言うのは不安で仕方がなかったのだろう。遥もその思いを感謝して育ってきたし、剛のことは本当に馬鹿だったと反省すらしていた。

 彼女は大学の美術館が好き。あの特徴的な螺旋階段をよく好んで上から眺めていた。この階段は業界ではとても有名で、よく音楽のプロモーションビデオ撮影などで立ち入り禁止になったりしていた。映像関連業界にも東京芸出大学卒業生が多数在籍しているものだから、それは当然のことね。と遥は思ったし、それくらいにこの螺旋の曲線美は芸術に見えた。

 今日はヌーディストをモデルにした絵画を描いていた。女性の裸とは、そのエロチックさと、母性と、曲線美を描くのがとても難しくて、しかしながら、この大学にはエキスパート生しかいなかったものだから、それでも実態物に近い絵をかくことができた。只、遥は、なにかこう、破壊的な要素となる赤と黒を織り交ぜて、まるでデザインのようにして描いたものだから、生徒のみんなは、相当この天才女子大生に恐怖さえ感じたほど。いったいこの美女は頭の中で何を考えているのだ? ひそかに学部内でうわさがささやかれた。

 遥は相変わらずワンピースが好き。大学もたいていスカートをはいた。パンツだと桃尻をじろじろと見られるのがとても嫌でしかたがなかった。彼女のからだは性の快楽に目覚めている。もはや開花していた。開発されていた。しかしながら、遥はそれを必死に抑えた。いまやオナニーすらしていない。清楚なお嬢様は、じつはいうとね、とっても淫乱なの。そうとは思いたくなかった。剛のことなど忘れたはず。もはや忘れていた。思い出に存在しなかった。そう、それでよかったのよ。後々、彼女はふと思う。思い出すのはそんなときくらいのもの。いつのまにか遥はバージンのようになっていた。しかしながら、表情には性の快楽を耐えているひきつった面影が浮き出ているように自身は感じた。セックスがしたい。セックスがしたい。セックスがしたい……。いやっ――

 我に返る。今日の夢も肉棒を咥えた激しいセックス。

 彼女は絵に夢中。この感情を絵画に示したかった。狂ったような落胆のような、狂気の沙汰だ。それがデッサンには色濃く表れていて、それがまた芸術だと恐れられながらも表敬される始末で、どうにもこうにも止まらなかった。

 だれか、おねがい。肉棒で終止符をうって――

 遥は口に出して言えなかった。それもそうだろう。彼女は清楚であり、そんな感情はご法度なのだから仕方がない。嗚呼、わたし。どうにかなっちゃいそう。だけども、それは時が解決してくれた。いまでは性の快楽など知らない処女だ。聖女だ。おそらく、聖母マリヤ様も苦労したのでしょうね。性との戦いに。自身との欲望と戦ったのよ、彼女も。それが人間だものね。いえ、生き物の性なのよ。

 いつだっただろうか? 遥は奥多摩の上流へと原付バイクを走らせた。道中、大した坂道ではなかったが、原付バイクはエンジンから悲鳴を上げていたほど。その音を聞くと、がんばれ! ジェニファー!と、命名したバイクの名前をこころで応援歌のようにして叫んだ。奥多摩の上流に着いた。

 これ以上奥の方へ行くのはやめておきましょう。この場所は、ほんとうに奥多摩の上流入り口付近の近場であった。まだまだ源流の方へと足を伸ばせるのだが、原付バイクではこの場所が精いっぱい。

 遥は自動車免許を高校卒業の際に取得して持っていたのだが、車を購入してもらう事をしなかった。なんだか自分には原付バイクがしっくりと来ていたし、車は教習所の運転でこりごりだと思っていたものだから、そうした。

 彼女は最近、一眼レフカメラの趣味を始めるようになっていた。絵を描くことと被写体をきれいに写すことは何だか似ているような気がしたから。写真技術の奥深さも魅力的に感じていた。遥はおもむろに綺麗な淡水をした川の写真を露出計でしっかりと合わせてから撮った。今日はスケッチブックを持ってきてはいない。この写真を写真屋で現像したのちにフィルムを選んでから大きくプリントアウトしてもらうつもりでいた。それからその写真を壁に貼り付けて絵画を書く。風景画の新しい描き方である。遥はその場所場所の山菜などを文庫の小さな事典で毒性がないかなど調べてから、バックパックにしょいこんだサラダ油と胴の深いスキレットで現地天ぷらをしてひとり楽しんだりもしていた。この自然の恵がまた雰囲気も味方して、とても美味に感じた。

 大学生活も徐々に単調となっていく中で、やはり慣れというものは、日めくりをあっと

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