原付バイクと風景画 20

 原付バイクと風景画 20

いう間とさせた。いつのまにか二回生で三回生となる。このころには友人も増えたのだが、遥はいつだって校内でのみコミュニケーションをすることしかしなかった。こわかった。おそろしかった。なにがそうさせたのかはわからない。只、社会で遊びまわると言う事が、なんだか破廉恥に感じていたし、実際そう。芸術を行き過ぎてマリファナを吹かす輩も中にはいたし、最終的には覚せい剤に手を染めた学生もいたほど。自身の体のことなどいたわらずに、酒や薬や左翼活動に右翼活動といった集会に馴れ合う生徒が多い中で、遥だけは清楚に生きようと必死。性の淫らさは高校生活で仕舞にしたつもり。もう二度と淫乱なんかにならなくてよ。心でそう誓っていた。なものだから、それを壊すような破壊的な社会とは無縁に学生生活を送りたかった。それには休日、ひとりで原付バイクにまたがり自然散策するのが一番の癒しだったわけだ。

 四回生になるころ、遥のもとへ大学院進学のはなしが出た。彼女は喜んで承知した。そして半年間の留学経験も済ませる。留学へ旅立った先はスペイン。それから帰国後、大きなニュースが飛び込んでくる。父親の出所知らせ。犯した事件が事件なだけに、ことの重大さを痛感する遥にとって、再会するのは、なんだか身の危険を感じたし、斉藤家のこともあるものだから、結局、会わないことに決めた。父親の故郷は遺言状にて知っている。広島県。遥はお忍びで女子の一人旅したことがあった。

 広島県尾道には、父親家族の長男が親の代を引き継いで小さな鉄工所をしていた。そこまで現地にてひそかに調べると、遥は尾道の観光をした。もちろん、平山郁夫美術館と千光寺は観光から外せなかった。

 ときどき彼女は広島焼きを都内の鉄板焼きで食べた。目玉焼きにキャベツの千切り。そしてベーコン二枚を重ねてからお好み焼きをいちばん上に乗っける。ひじょうに美味だ。遥はこのような食べ物が大好きだったし、だけれど、太ってしまわないようにジョギングなんかはしっかりとしていたものだから、まず、肥えることはなかった。それに、彼女はもともとから食べても太らない体質

 明日があるとして、でも、それって、素敵な王子様が訪れることでもあるのかしら? 遥は最近になると、大学院生活の中に何かしらの恋愛要素を探り出し始めていた。なんだか心淋しくなってきたのだ。それは只単にセックスを求めていたと言うわけではなくて、彼女は思い切りよく童心に帰りたかった。あの心打つ脈動をもう一度味わいたかった。そう、沖縄の剛君。彼は元気かしら? そんなことを思い出しながらだ。

 遥はいまだカメラと自然散策に虜。彼がほしいけれど社会で探すのは御免こうむる答えだった彼女は、大学以外で男を欲さなかった。そう、それでいいのよ。わたしね、こう思うの。わたしはわたしだと。だからね、わたしは暫く休日ひとりなのかもしれない。でもね、わたし。きいて。わたしね、むきになってるわけではなくて、本当に本音よ。

 秋口になり冬を迎えた。都内でも二十五日のクリスマスに大雪が懇々と降り積もる。世界はあたかも白銀のようだったけれど、それに電光がいくつも反射しており、嗚呼、都会の雪とはなんだか人工的なものね。と、遥は考えていた。

 大学院生活も終わりを迎えようとしていたころ、彼女のもとへ一通の手紙が届いた。父親からだ。どうしてこの場所にいることが分かったのだろう? と不思議ではあったが、血のつながった親子なのだから、警察かなにかが捜索に協力したのでしょうね。もしくは探偵を雇ったとか。そう思ったし、よけいに父親が怖く感じる始末で、封を切るのに指が震えた。会いたいのと会いたくないのと、わたし、この気持のどれを選べばよいのだろう? 夜更けに考えたことがある。けれど、手紙の内容は潔白なる更正した父親の文体だ。これは会うべきなのかもしれないわね。と、ひとつため息みたいなものを吐いて遥は眠りについた。

 この季節のあいだ、彼女は撮りためてある写真を整理しながら、まだ描写に手を付けていないものを絵にしたりしていた。そして時々、ティーカップに注いだ温かいミルクティーをすする。焼き菓子はイギリスのクッキー。よく百貨店にあるような奴だけども、遥はそれがとても気に入っていたし、べつに海外から個人輸入するほどクッキーに対して親しみがあるわけでもなかったものだから、それで十分、事足りた。

 休憩しながら留学していたスペインを思い出す。なぜにノルウェーだとかスイスだとかオランダにしなかったのかは、ほんとうに気まぐれみたいなもの。留学生みんなが行くところの絵画はもう大学の美術館でもどこでも見飽きていた。あの斉藤のぶこし先生は言っていた。スペインはいいぞ、と。だからそうしただけのはなしだ。遥は闘牛の絵もかいたりした。真っ赤な情熱ともいえるレイヤーとブラシを使い、鮮血をはじいたようにして描く。人々のフラメンコダンスを踊っている様子も目の当たりにして写真を何枚も撮った。ホームステイ先に戻った後、それを絵にして描くのだ。とても楽しかった。そして時間はあっという間に過ぎて行った。スペインの若者は血が濃く、そしてとても情熱的だったものだから、セックスの誘いは幾度となくあった。遥はもう少しで落ちそうなところまで行っていたし、それでもいいとさえ思った。しかし結局、桃色の乳首をだれにも魅せることはなかった。それがなんだかスペインに取り残されたようで少しだけ後悔みたいなものを感じたりもした。スペインは、赤と黒と、白色と木色、そして青いジーンズ色。その色彩の思い出は、生涯忘れることはなかった。

 ふと我に返る。出窓の外はまだ現在の冬。雪が降り積もっている。嗚呼、ヨーロッパはよかったな……。遥はまたひとつさびしい思いを一人部屋の中で露わにする。

 春になった。遥は大学院を卒業後、美術研究員としてそのまま大学に残。美術研究員というのは筆頭生らの画家生活を保障すると言うか、言うなれば囲うと呼べばいいのだろうか? つまりは、国の重要文化財として保護された画家生活を送ると言う事で、彼女はなんだか一人暮らしがしてみたいと、このころから思い抱くようになっていたものだから、おばあちゃんは家を出て行かないか相当心配していた様子。そんなことがあって当分の間は斉藤家に残る決意で遥はいた。

 彼女は海外ではなくて日本中を旅してまわった。やはり日本が大好きだったのだ。しかしながら北海道へは、なんとなくだが、お彼岸の時にだけ札幌市内を。だけにしておいた。なにかこう聖地のような感覚。それと、北海道で位はお母さんの墓から離れたくなかったと言うのもある。そんな札幌という街は無意識にもそう感じさせる場所。だが、遥は秘密的いっかいのみ、ほろりと夕張へ足を運んだことがある。やはり何もないところ。彼女はそう落胆したかと思えば、そうではなかった。実に懐かしさを感じる始末でどうしようもなかった。母との記憶がよみがえるこの場所は心地よくて、まるで雲に乗っかったような気分さえ味わったほどだ。人気のないパークのようなところにレストランが一つだけあった。本当にこんなにも客がいないのにどうしてやっていけるのだろうか? と、不思議に思ったが、夕張市ではなく北海道が運営していると言う事で、納得がいった。町お

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