原付バイクと風景画 22

 原付バイクと風景画 22

りは絶対に話せなかった。打ち明けるつもりもなかった。二時間ばかりして店を出る。

 尾道は歴史と文化の町だ。徒歩で向かう先々が、とてもなごやかにおちつき、そして、海水はとても青かった。村上海賊が愛したあの島には、埋蔵金が今でも眠ると言う。それは本当だろうか? そんな会話を二人はした。

「この後の予定は? すぐ東京へ帰るのか?」

「ううん、今日は泊り。尾道で、宿、探そうと思っているの」

「それなら、兄弟宅へ泊ればいい」

「いいえ、気を使うから」

「そうか……

「おとうさんもどうですか?」

「え! いっしょにか?」

「まだまだ話足りてないから。それに、すこしだけ地酒をおとうさんと飲みたいとも思うし。いいでしょう? おとうさん」

 遥は父親の過去を知っているし、忘れたわけではなかった。だけども、なにかこう、三郎には引きつけるものがあったのだ。それは果たしてなんだろう? 彼女にはわからなかった。それを知りたいと思ったし、父親を試してみたかった。更正したのかどうかと言う事を身を呈して見定めるのだ。これには非常勇気みたいなものが必要。そうではない。只、単に、父と娘の空いた空間を埋めたかった。時間を埋めたかった。失われた三郎と遥の馴れ合いに対して欲していただけなのかもしれない。父親の背中ぐらいは流してあげたかった。しかし旅館のためにその夢はかなわなかった。その代わりとして冷酒の入ったトックリを持ってして三郎のオチョコにそれを注いだりだとか、寝る前のマッサージなんかをしたりだとかした。二人ともに、ほろ酔い状態。

 結局、親子はした。禁じられたセックスをしたのだ

 遥は何年かぶりの行為だったし、三郎も久しいように感じていた。布団を並べ、電気を消して、それから三分後のこと。したいと発したのは娘の方が少し先。「おとうさん……しても、いいよ」と。わたしを抱いてお母さんを思い出して。さあ、わたしの裸を見なさい。そう、それでいいのよ。まるで聖母マリヤのような気持でいる遥にとって、父親の三郎は下僕でしかなかった。召使のようなもの。そしてまた、イエスキリストであった。非常に乱れた性交渉は長い時間続いた。嗚呼! そこ、いい! もっと突いてぇ! はあん! 嗚呼! おお、娘よ。おかあさんよ! 嗚呼、逝くぅ! 逝っちゃう! 逝くぞ! 逝くぞっ! 遥の顔面はいつの間にか父親のザーメンまみれになっていた。何回も何回も顔にかけられたのだ。その生々しい匂いが、彼女にはたまらなかったし、興奮を抑えられなかった。もはや雌と雄の交尾。二人は人間ではない。只の獣である。獣の近親相姦。

 行為の後、遥は裸のままで泣いた。唇を手で隠して泣いたのだ。もはや号泣。彼女はいま、これまでの人生を振り返っていた。幼少の頃である父親との記憶は薄い存在。それでも遥は一生懸命に父親の顔を思い出した。学生の頃、母の遺言状を読んだとき、そして三郎からの手紙を確認した瞬間。精一杯心の端っこに父親の存在を探した。彼女はけっきょくのところ、三郎に抱かれることでしか自身の存在を示せなかった。この答えに遥は愕然と震えた。もう終わりがここまで来ているような気がしたのだ。彼女は今回が最後。おとうさんと再会するのは一回で終わり。もう終いよ。そんなことを考え始めた。

 遥は東京へ帰ってからというもの、なんだか心にぽっかりと穴が開いたようでいて、しかも、何かがその穴の向こう側へと消えようとしているのを感じた。はて、それは、なんだろう――? 彼女は考えてみた。見つけた答えは、三郎の存在。記憶にある父親の削除。

 いつきてもきれいだわ。戻って次の日、奥多摩の渓流に遥は来た。じつはいうと、昨晩、実家の風呂場で恥毛を剃っていた。父親に触れられた汚らわしい体毛だ。遥はそれを川へ流しに来ていた。それが渓流に来た一つの理由。せせらときれいな水が流れる川岸から、彼女はおもむろに取り出した恥毛をうかべた。あっというまに消えてゆくこの恥毛には、父親の記憶削除と同じ意味をこめた。やがてはすべて流し終えると、遥は立ち上がって周囲を確認した。だれもいなかった。

 遥はバックパックからおにぎりと水筒を取り出して軽く昼食を済ませた。今日も写真をいくつか撮ってから帰宅するつもりでいたものだから、どの光景をとろうかなどと考えながらの昼ごはん。結果、流水にアングルを命一杯近づけたマクロ的な写真を収めることにした。撮影は上手くいった。バス停に戻って帰宅する。途中からは原付バイクだ。

 バスは二時間に一回しか通らなかった。それもちゃんと計算済みであった遥は、時刻表と丁度に待ちを合わせていた。あと三十分……。今日はその時間のずれがあった。バスが遅れている様子。仕方なしというわけではないが、彼女は非常用に用意していたみたらし団子の三本パックを取り出すと、それをゆっくりと食してバスを待つことにした。野鳥のさえずりなんかが響いて届く。カエルの鳴き声も近かった。後ろの方には大きな柿の木が一本そびえている。たくましい木ね。きっと、ことしもたくさん実るのでしょう。人間の気配はな。きょうは釣り人も少ないし、むしろ会ってないわね。こんな日もあるのだわ。なんて静かで気持ちよいのかしら。聞こえてくるのは人間以外の声で、とても自然と調和している。そうよ、彼らは、彼女たちこそ生き物なのよ。そう、そうに決まっている。遥は、ふと、そんな思いに駆り立てられた。ようやくバスがくる。

 バスを降りて原付バイクに乗った。次に向かう先はいつもなら銭湯だが、恥毛を剃ってしまっているために、それは遠慮しておこうと思った。まっすぐ帰りましょう。ゆっくりと。エンジンをかけて下り坂をおりてゆく。道中、緩いカーブがいくつもある。彼女はいつも通り身を傾けてから軽快に道を抜けて行ったのだが、突然、スリップのような状態になってしまった。いや、完全なるスリップである。あっ――! しかし、駄目。

 

 

 遥は救命病棟にいた。意識は失ったままである。

 武蔵野の救急は医科大学病院が受け持っている。彼女はそこの集中治療室内へ緊急脳手術後、移された。様態は深刻。遥の身元は財布に入った免許証で確認済みであったために、今日も親族が見舞いに来ている。義母は付きっきりで看病していた。術後から二日経過してい。意識回復が遅れれば遅れるほどに、後遺症、もしくは命に危険が伴うと説明されていたものだから、お婆ちゃんはよほど心配していたに違いなかった。

 遥は遠い意識の中で夢を見ていた。とてもとても深い幻を。

 世界は真っ黒な絨毯(じゅうたん)に包まれており、何もかもを魅せなくしていた。彼女は自身が素っ裸だと言う事を意識せずともそう感じていたし、何もこの世界では恥じら

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