オーミチャー「少年探偵団2」 1

 オーミチャー「少年探偵団2」 1

オーミチャー「少年探偵団2」

著者:滝川寛之

 

 

 わたしの名前は大道やよい。芸名は守屋茜というわ。

 ねえ、わたしのはなしをきいてちょうだい。

 わたしね、子供を作らないって言ったじゃない? それなのだけれど、これには相当な覚悟が必要だったわ。ええ、そうよ。あかねは覚悟を決めてたの。でもそれってすこしおかしいのじゃないかしら? 女が子供を欲しがらないなんて、なんて大罪を平気そうな顔して言えたものね。なんて、そうは思わないでちょうだい。

 茜はね、本当のわたしではないの。そう、つまりいえば偽物でしかないのよ。それがどういうことなのか、あなたには話しておかなければならないわね。だって、あなたは生涯大切な人なんですもの。当然よ。だからきいて。これから話す茜のことを。わたしの全てを知ってちょうだい。

 

 甲高い園児たちの声が響き渡るこの養護施設は、彼女にとって故郷みたなもの。

 大道やよいは昭和生まれであり、これが生涯変わることはないだろうと考えていた。思いもしなかったのだ。意識すらしていなかったし、無関心。

 

 これがとは、やよいの心霊能力のことをさす。

 

 彼女は幼少のころよりここで世話になっていたものだから、記憶をどうさかのぼっても、あるのは養護施設の思い出だけ。

 やよいには一歳離れた目に入れてもかわいい弟がいて、名前は琢己(たくみ)といった。なものだから、彼のあだ名は(漢字が似ていることから)自然とトンミーと呼ばれ、やよいは、オーミチャーと言われていた。

 オーミチャーは酷いあばた顔。それについて、おそらく両親の梅毒(想像の世界だが。両親は他界している)か不衛生ゆえのダイオキシンが関係しているものと、後になってみて彼女は思った。

 幼いころからやよいは顔を馬鹿にされて生きてきた。そのストレスとあきらめみたいなものが、なおさら彼女の表情を酷いありさまにしていた。トンミーの方はイケメンでよい表情をしていたものだから、やはり親違いなのかしら? などと勘ぐったりもした。しかしながら、それを彼女は彼に言えるはずもなく、悩み事がまたひとつ余計に多かった。

 やよいは人魚姫のように良い体つきをしていて、艶があった。おしりもえくぼみたいにへこんでおらず、極めて完璧な桃尻。それだけが彼女のチャームポイントのようなもの。やよいの性格はおっとりとしていておとなしく、決して明るく振舞う人間ではなかったものだから、良く先生にもっと明るくなって悩みを吹き飛ばさないと駄目だよ!とげきを受ける始末。

 施設は女子にとって相当地獄というわけではなかった。男子児童よりは恵まれていたのだ。それについて、女は大人になってから苦労する生き物だから、今は命一杯甘えなさい。と、またしても先生に発せられたほど。

 オーミチャーは学校でもいじめの対象である。まいにち苦しくて苦しくて仕方がなかった。つらかった。逃げ出したい気持ちは誰よりも大きかったし、ときどき不登校を重ねたこともあった。それが災いして成績はあまりパッとしなかったものだから、施設の先生は夕方、勉強を熱心に教えてくれた。

 

「せんせい、わたし、オーミチャーっていわれるの、好きじゃないんです」

 

 そんなことを相談したことがある。先生は困った顔をした。

 困惑した先生をよそに、やよいは勉強に再度集中した。返事はききたくなかった。どうせつらくなるだけでしょう? せんせい。もういいの。わたし、オーミチャーという十字架を背負って生きていきます。いつしかそう思う事もあった。だけども、とても悔しかったし、それと真逆に死にたいとも考えた。本で自殺方法を調べたりもした。もちろん、そんなものは施設の図書館にはなかった。学校の図書館にもない。あるのはテレビのドラマでよく見るシーンの首つり自殺だけだ。

 オーミチャーはいつもどこでも頭を下にして歩いていたものだから、必然的に猫背である。それがまた奇妙で毛嫌いされた。容姿はどうしようもなかったのだ。やよいは心だけはどうか挫けぬようにと、小学生のころから聖書を熟読していた。そして考える力というものを養っていった。悟りみたいなものが支配した時は、なにものにも勝る思いで心が晴れ晴れとした。しなかった。

 聖書を読めば読むほどに、あらゆる矛盾点を余計難解にした。訳が分からなかった。牧師の言う「右の頬を殴られたら左の頬を出せ」という教えは、とてもじゃないがマゾヒストそのもののように感じたし、正直、狂っているとさえ思った。

 一方、トンミーの方はというと、彼もまた施設の先生に可愛がられていた。明るい性格をしていて、その上、正義感というものが備わっていたものだから、女子にも男子にも人気。

 どうしてわたしは見た目に恵まれなかったのかしら? そうすれば、性格だって皮肉れてはいなかったはずなのに。もう、どうして! 

 オーミチャーは、一人、悔しくて泣いたときもあった。二段ベットの中で。タオルケットを頭までかぶりながら。しくしくしくしく泣いた。女々しく泣いた。

 わたしは男ではないものね。とうぜんよ、マリヤ様。でも、けれど、人並みの幸せっていうものはほしかったわ。

 いじめは一年の頃から酷かった。あれもこれも同級生に投げつけられ、お前の居場所は鳥小屋だの、豚小屋だの、特殊学級などと罵声を浴びせられた。辛抱ならなかった。そのころから、オーミチャーがどもり気味になったのは。精神崩壊しそうになっていた。半分落ちていた。

 やむなく特殊学級に移動させられると、元学級の先生はほっとしたような表情を浮かべていたのを目撃したものだから、オーミチャーは、どほしでー!(どうして?!と泣き叫ぶ始末。

 本当にかわいそうな女子児童だ。施設の先生たちは彼女の心境を慰めた。どうか穏やかになれ。そう祈って。教会の牧師もやさしかったし、オーミチャーにとって、施設が落ち着く居場所みたいなもの。それを誰が笑うと言うのか? とてもとても悲しいことだ。

 嗚呼、主、イエスキリストさま。わたしは大罪を犯したのでしょうか? 前世は極悪非道の女だったのでしょうか? わたしには訳が分かりません。まったく信じられないのです。

 

 やよいはいま、シャワーを浴びている。ぼつぼつとしたアバタ顔が指先へ感触を伝えてとてもつらくなった。シャンプーをつけて頭を磨く、頭皮までもがぼこぼこのぼこぼこ。

 いやっ――! 

 オーミチャーは、一瞬、目を見開いた。泡が入る。とてもしみて痛かった。おもわず出しっぱなしにしていたシャワーで洗い流す。

 嗚呼……。なんてことなのかしら。いったい、なんてことなの! どうして、どうして、わたしはこんなにも醜いの? どうして! 

 訳が分からなくなる。脳天に怒りが突き刺さったような症状に陥った。

 みんなくそったれなのよ! いいわ、わたしにだって考えがある。こんなわたしにだって考える力はあるの! 今に見てなさい! わたしはシンデレラ姫。とてもとても醜いシンデレラ嬢なのよ。いつかね、きっと、素敵な王子様が現れて、そしてね、そして、わたしをきれいにしてくれるのだわ。でもまって。ちがう。それはわたしから会いに行かなければならないこと。わたしが進まなければだめなの。いいわ、こうしましょう。わたしは目標を持つべきなの。とてもとても高い目標を。でもそれって、なに? なにができるの? いったいこんなわたしに何が出来るっていうのよ! やっぱり世の中は不公平なのだわ。どうせわたしはこのまま朽ち果てるの。死んでしまうのよ。だから? だからあきらめなさいっていうの? そんなのいや! ぜったいにいやっ! わたしは、わたし……

 風呂を出る。相変わらず綺麗な曲線美を描いた身体は、バスタオルを吸いこむようにして滴の一つ一つを弾き飛ばした。

 わたしにはこの体しか残ってない。もう顔のことで考えるのはやめましょう。そうだわ、それじゃ何も始まらないもの。わたしは示しを付けるのよ。世の女性諸君に、わたしと同じ運命のもと生きている彼女らのためにも、生きるの。生きてみせるわ。

 衣類を着る。浴室を後にして共同部屋へと向かった。フロアは女子と男子に分かれている。まず、レイプ事件が起こることはなかったが、女子たちはいつもびくびくしていた。

 やよいは二段ベッドへ横になった。敷布団は薄くて硬。枕を高めにして読みかけの小説を手に取る。家なき子。この単行本は誕生日プレゼントで先生から贈ってもらった大切な代物だ。もう何回も読了していた。

 わたし、将来、小説家というのもいいかもしれない。だってそうでしょ? 誰にも会わずに家に引きこもって仕事が出来るのですもの。なんて幸せなのかしら。でもそうね、執事はほしいわ。温かいレモンティーを持ってきてくれるお手伝いさん。秘書ともいうわね。嗚呼、夢って誰にでもあるのね。夢だけは無料ですもの。なんてすばらしいのでしょう! やよいは少しだけ心が躍った。ウキウキとした。

 学校のいじめは本当にひどかった。だけれど、わたしは生きていくことを決めた女。児

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