@原付バイクと風景画 3

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っていたのだ。それは、遥の大好きなカレーライス。

 スーパーにはあまり品がそろっていないのと、持ち合わせを節約しなければならなかったために、鳥の胸肉と人参だけのカレールーになった。それを水っぽく伸ばしてから食する。これではまるで刑務所のカレーライスだが、遥と言えば、これが当たり前だと思っていたので何も言わなかった。

 カレーライスを食べているときに、咲子は遥へ「あしたは近所さんにあいさつに行きましょうね」とだけ話していた。遥は元気に「うん!」と返すのだった。次の日にな

「おはようございます」

 咲子は近所さんドアをノックし出てきたところであいさつした。

「あら? となりのひと? 空いている部屋の人ですか?」

「はい、そうです。昨日越してきました」

「あら、そう」

「これからご迷惑などおかけすることもあるとは思いますが、どうぞよろしくお願いします。ほら、遥、ごあいさつしなさい」

 そう言って咲子は遥にお辞儀をさせた。

「よろしくおねがいします!」

「あら、元気な子ね。よろしくね! 名前はなんて言うの?」

「遥です」

 咲子は咄嗟に発した。

「はるか。いい名前ね! はるかちゃん、なんさいになったのかな?」

さいです!」

才? まあ! 四月に小学校年生か。もう顔立ちが整っててかわいい子ねぇ!」

「私の自慢の子なんです」

「そうでしょうねぇ! こんなかわいい子、宮古島にはいないわよ!」

「お世辞でもうれしいです。ありがとうございます」

 咲子と遥はその場を後にして、ほかのご近所さんにも同じようなあいさつを済ませた。好印象を持たれて、咲子は肩をなでおろした。

 そういえば、病院へは遠いのかしら? そこら辺を今度ご近所さんに聞かなければなるまいて。しかしながら、いきなり病気のことを打ち明けるのもどうかな? などと考えたりもしたが、なんだかこの島では隠し事などできないだろうと結論付け、さっそく今度、病院の場所を聞くことに決めた。薬はまだあと三週間分あった。

 春休み中は、ほとんどが近場の砂浜で過ごした。

 今度釣りでもしてみたいわね。けれども、釣りなんてしたことがないものだから、どうすればいいのかすら分からなかった。果たして何が釣れるのだろう? 咲子は一人、考えたりもした。

 テレビ、冷蔵庫などは最初から用意されており、役所の心使いに感謝した。ありがたい話だわ。日本人で本当に良かった。咲子は毎日が感謝。まあ、冷蔵庫と言っても、そんなに買い置きできるほど金銭的に余裕があるわけではなかったが、この島は定期便で物資が運ばれてくるため、なるべくは買い置きしておいた方がいいわよ。とは、ご近所さんから聞いていた。なにせ台風の時なんかは物資が届かないもの。咲子はなるほど。と思った。台風のことなどは考えもしなかったために、この話が最初で聞けたのはついていると思った。

 非常に群青色をした夜空にお月様は見えなくて、只々、星屑がまんべんなく行き届いた夜道をすこしだけ肌寒い思いをしながら散歩した。道端のサトウキビ畑からは蛇が出てきそうな気がすこしだけしたが、だけれども、なに一つでわすことなどなかった。宮古島にハブはいないのだ。

 今夜のこの思い出は明日になれば遥の絵の中に再現されるだろう。別にかまわない。咲子は思った。

 嗚呼、とうとう逃げ出してしまった。亭主からの逃走劇なのだと言う事を思い出したとき、何気なく右の掌が小刻みに震えた。それが恐怖からなのか、期待からなのか、それは果たして知らなかった。あたらしい世界とはいまだになれないものね。咲子はそう考えると、遥を連れて帰宅の途に就きたくなる。

 遥は、北海道から沖縄に来た経路など、なにひとつとて遠く薄れる一方で、産まれた場所に関して疑問を抱くようになっていた。はるかはどこからきたの?彼女は咲子にそんなぶっきらぼうに訊いたことがあった。咲子からははぐらされるばかりで、何一つ答えは返ってこなかった。

 はるかはおきなわにきて、それからほっかいどうにいて、それから……

 夏休みになるころ、そうつぶやいたことがあった。宮古島の同級生に生まれ故郷を聞かれたときの話だ。しかし、わからなかった。記憶から飛んでいた。薄れていた。

 どこかで聞き覚えがある。自分の生まれた町のことを。産婦人科を。三人親子でいたころの話を。

 遥はいつしか父親の存在すら消えてなくなりそうになっていった。それはとても危ういと言えばそこまでだったが、遥の父親は何しろ犯罪者であるからして、咲子はそんなこと考えなくていいのよ。と口癖のようにして発していた。でも、それでは筋が全く通らないではないか。咲子は遥に、北海道から沖縄に移住する際、いつかお父さんを探しなさいと言った。母のためにも会いなさいと。それが時間とともに変わった。只、それだけのはなし。しかし遥は父親の存在を完全に忘れる直前、確かにはっきりと自分は父親に会いたいと強く思った。あのとても優しかったお父さんに会いたいと願った。

 咲子は父親の写真をすべて捨てていた。なぜ? どうしてすてたの? 遥は思ったことがあった。咲子は父親が性犯罪者であることを言えなかった。恥ずかしい記憶と、叱責に満ちた思いが咲子の心の中を時間をかけて交錯した結果、咲子は遥にお父さんのことはもう忘れなさい。と言った。それが生まれて初めての親子喧嘩の原因。

 遥は小学生から絵の具を使って絵を描くようになっていた。画用紙は学校でいただいたものだ。彼女は特別、才能を認められていた。また、の絵に対する思いは本物だったものだから、学校は極力、助けを貸してくれた。ありがたかった。ありがとうございますと言った。

 宮古島はとても緑と青色がはっきりとした色彩を持つ島だった。ダイレクトでダイナミックで、遥はとにかくこの透明と紺碧を愛した。彼女は岬をよく描いていた。灯台が真っ白で、それでいて青い影を落とすそれはとても素晴らしいと思ったし、岩肌と草原とが、みごとに調和している光景に、テッポウユリまで自生している。正直、こんなに素晴らし

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