原付バイクと風景画 17

 原付バイクと風景画 17

を気楽に発する剛はやさしい口調だったものだから、遥も気楽に話ができた。しばらくしてから昼休みも終わりのベルが鳴る。教室に戻ろうとする剛を戻すようにして遥は「あの、今度一緒に絵を描きに行きませんか?」とだけ言った。彼はおもわず笑った。そんなことを言う女子は初めて見たと、そう発しながら。

「いいぜ、とりあえず絵は描けないけどな。散歩しよう散歩」

「いいんですか?」

 ああ。とだけ剛は返すと、階段の中に消えていった。そのときから、二人の交際は始まったようなもの。後日、場所などを決めたりだとか、待ち合わせや時間、いろいろ話した。剛は土曜日は無理だけれど、日曜日の昼なら空いているとのこと。ライブハウスをはしごしているので土曜日は多忙なのである。遥はライブハウスに行ってみたかったし、おばあちゃんにも相談した。駄目。ときどき、斉藤家を呪いたくなることもあった。しかしそれでは恩をあだで返すようなもので遥はとてもできなかった。原付バイクを取得させてもらっただけでもありがたく思わなくちゃね。仕方ないわ。そうやってあきらめるしかなかった。

 遥と剛は日曜日の昼過ぎに三軒茶屋駅で待ち合わせし、世田谷公園へとむかった。大きな池がいくつかあるこの公園は絵を描くのに絶好で、しかしながら約束通り絵を描くことはせず、その道具も家においてきたところだったものだから、遥は地団太にしたい気持ちにさえなったものだ。それをこらえて彼女はこんど、美術館に行きませんか?と訊いてみた。まあ、そんなところ興味はないけれど、たまにはいいかもな。と、剛は承知してくれた。

「あの、大学進学はどうするんですか? どこか行きたいところとかあるの?」

「そんなところいかねえよ。卒業したら働くと決めてるのさ。建築でな」

「建築って、職人さん? え! すごい!」

「まあな。遥は決めてるのか? 将来のこと。もう高校二年生だろ? 決めとかないとな。後々面倒になるぞ。まあ、どうせ進学だろ? エレベーター式で」

「わたしは推薦で美大に行くことになっています。あの、斉藤のぶこし先生知ってますか? 画家の。その方とつながりがあるんですよ、斉藤家は。でも、そのだいぶ前から知り合いなんですけど……。わたし、養子なんです」

 なんだ? なんかすごい話になってきたな。と、剛は目を丸くして見せた。遥は一部始終をすべて話した。そっか……。それが彼の返した言葉だった。でも、運命みたいなの感じないか? 金城さんは斉藤のぶこしを知っていて、そして、のぶこしは斉藤つながりでお母さんといとこだとかいうところ。偶然にしても出来すぎてる。遥はうなずいた。そう、そうなの。と。

 彼女は、斉藤のぶこし画伯について何かこう意図的なものを感じていたし、不思議で仕方がなかったのだが、しかしながら、実際のところ本当にそれらは偶然の産物でしかなかった。遥の運命はそうきめられていたかのように、なんだかこういってしまえば彼女には夢も与えられず希望も持てないといった具合になるのかもしれないが、とにかく遥ちゃんには宿命という要素が生まれてからすでにあったのだ。こだまはるか。その名前が所以なのかはどうか果たして知らない。でも、遥は思った。これもきっと自分の名前からきているのだわ。と。やっぱりわたしはいけないことを想像したりだとか妄想したりだとか許されないのよ。だってそうでしょ? わたしはこだまして響き渡るのよ。それは誰のため? そう、子供たちのために。わたしは示さなきゃならないの。みんなに。そう考えると、彼女はなんだか剛に惚れたことを悔やむようになっていった。いけない王子様に惚れるだなんて、この運命には皮肉なドラマも存在するのね。お母さんの死なんかもそう。いつだって波乱万丈なのよ。嗚呼、沖縄に帰りたいわ。あの島のきれいな海ともうひとりの剛君。彼に会いたい。とってもとっても。

 来週の日曜日、美術館へ行く。果たしてそのあとはあるのだろうか? いいえ、はじめから終わりにしましょう。この恋は。遥はそうきめて翌週を迎えた。

 渋谷の美術館はとても有名な世界的画家のギャラリーをやっており、その絵のすべてがとにかく圧力的。大小それぞれの感情(キャンパス)の中に魂が踊っているかのようである。いや、それだけではなかった。なにやら幻想的な要素まで施されており、とにかく夢と現実のはざまにいるような気持ちに陥る。これが天才と呼ばれる画家の絵なのか。遥はとても感慨深かった。

「ミュシャ展って言ったっけ? この絵は圧力すげえな」

「うん。チェコの農奴の姿。8メートルの超大作……。すてき」

「この絵なら芸術の凄さがわかるかなって感じがするよ。来てよかった」

「うん……

「そういえば、こんど絵を描こうって言ってたな。世田谷公園で」

「うん」

「いいぜ、描こう。いっしょに」

「ほんとう?」

「ああ。なんだか楽しみになってきた」

「うん! ありがとう」

「この絵のパワーは本当にすげえなぁ……

 いけない。遥はそう思った。やだ! どうしよう。今日で終わりにするって言ったじゃない。わたし。しかし、どうにもならなかった。それが恋というものだ。仕方がなかった。彼女はギャラリーを後にしたとき、一言添えた。わたし、おんなの子なんです。と。それにはいろいろな思惑が重なんで剛には見えた。彼はそう悟ると、只々、笑うしかなかった。なに言ってんだよ。と。遥は処女を失いたくなかった。だけれど、それを剛に授けた。このデートの終着駅にて、ラブホテルの一室で、彼女は一糸まとわぬ姿になった。こんなにも強引な男っていたのね。まだ数回しかあったことが無いのに、どうしてわたしは彼の全てに虜になっちゃったのかしら? とても不思議な気分。でも、悪くはないと言う気持ちも少しだけある。なにやらぽわっとしたような感覚。気が付けば剛のテクニックに堕ちていた。口説かれていた。

 遥は喘いだ。そして泳ぐようにして身体をくねらせる。じんじんと痛みをなす膣内からは、すこしだけ破廉恥な血液が剛の肉棒にへばりついている様子。彼は目を閉じた。逝きそうだ、と。彼女は、だして。とだけ呟くと、頬を真っ赤に染めた。恥ずかしかった。嬉しかった。わたしの身体に溺れて、そして頂点を迎えようとしている男。嗚呼、こんな幸せってあるのね。そう思った。

 剛は計算高い男。精子を中に出すこともなく、そのかわりとして、遥の恥毛とおなかの上にそれを飛ばした。遥は、あたたかい……。そうかんじた。彼は頂点を迎えた後も遥の

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