スキップしてメイン コンテンツに移動

注目

愛するということ 最終話特大号

   正樹は戸惑いながらも訊いてる事が分からないとでも言いたげに答えた。彼の頭の中は今、正に動転していた。 「だから、お前の気持ちはどうなんだよ」  苛立ちを見せた態度で智彦は言った。 「ああ、そうだな …… 」   正樹は正気へと戻り、冷静に言葉を探した。そして思った。   前にも同じ様なことを考えたが、友情が日増しに掛替えのない物となっている今、智彦の思いを裏切るわけにはいかない。ましてやこの世界の彼は、恵の事を正樹よりもずっと昔から想っていた。正樹はそれを思うと、智彦に対してとても哀れにも似た感情にさえなる。   やはり、身を引こう ―― 。   正樹は自分が恵と付き合うことで彼女をまたしても不幸になどしたくはない。自分に縁がないのならば、世界を変える大罪は、やはり全てを良からぬ方向へと未来を進ませるだけだろう。いや、その前に何もかもが消滅してしまう。   正樹は、たとえばもう一つとも言うべき第三の現実的世界があったとして、恵に再び出会い、関係を築いただろうと信じながらも、しかし、その三つある全ての世界の内一つだけは、少し離れた場所からそっと彼女を見守る愛し方もあるのだと、彼は心にそう言い聞かせた。   正樹は今、遠く上空に見える雲の流れに目を細めた。只、自然 に、 風に流され場所へと向かうその物体は、まるで人生における宿命を思わせた。   正樹は、一つ溜息を隠しながらもした後、智彦へ向いた。 「お前とならきっと良い方向に行くと思う。俺が言えることはそれだけだよ。大丈夫、全ては上手く行くさ」  発せられたその言葉は、少しばかり涙混じり に 揺らいだ。 「それじゃ、協力してくれるか ? 」  智彦は笑顔になって訊いた。 「ああ、勿論。それで、俺は何をすれば良いんだ ? 」  苦痛に満ち溢れながらもそれを押し殺し、やや無感情的に落ち着いた調子で正樹は 訊く 。   智彦が正樹に寄ってきた。彼はまるで誰にも聞かれてはならない様に小声で「実はな、あいつに気持ちを探って欲しいんだ。俺の事どう思っているのか訊いてみて欲しい。それでな、その答え次第で最終的に告白するかどうか決めようと思ってる」と、話した。 「そうか …… 」  言って正樹はもう一つの世界の自分を思い出した。   そう言えば、恵と関係を持つ前、智彦に相談しようとしていた事があった。それがこの話だ。世界はやはり

オーミチャー 15

 オーミチャー 15

て果たしてあなたが邪魔する必要などあるのかしら? 

 聞きなさい、オーミチャー。わたしがあなたの邪魔をしているなんてとんでもない。わたしは呪い移っているけれど、まだまだ力を発揮していないし、第一、不幸へと転げ落ちるのは運命だってことをよく解りもせずに、どうしてそんなことが言えるのかしら? 良いかしら? オーミチャー。あなたの運命は決まっているの。末路はこんなところではないってことを良く肝に銘じておくことね。

 あら? ありがとう、茜。それならわたしは今を存分に楽しむわ。だってそうでしょう? 不幸が末路なら誰だってそうするはずよ。運命が見えているだなんて、これも不思議なもので気が楽でよかったわ。

 ふん、強がり言ってなさいな。

 やよいは決して店の男連中に惚れなかった。固く言い聞かせていたといっていい。用心していた。それも裏社会で学んだこと。

 同業者に正義なんてないのよ。黒く染まったやつらは皆、悪党。とっても良い顔つきをしているけれど、表へ出れば化けの皮がはがれるキツネとタヌキ。キツツキのわたしは奴等とは違う。だってわたしは空を飛べるんですものね。え? ちがうですって? どういうことなの? それはどういうことなのよ。

 わたしも愚かな女。鳥になんかなれない獣の雌。メスは尻を上げてペニスを突いてもらうだけなの。只それだけの存在でしかない。

 どうしてわかったような口をきくの? あなたにわたしの何がわかるっていうのよ! 

 いいかげんにおしなさいな。

 ふざけないで! 嗚呼――

 やよいは夢から覚めた。時刻は昼間の三時。これから出勤して店の準備やらがある。本当ならば朝の九時には起きて美容関連の店へ行かなくてはならない。美しい女を演じるために。それが夜の女たちなのだから。それについてやよいはまだ慣れてなかった。それもそうだろう。ついこの前までは麻婆豆腐のアバタ顔だったんですもの。

 店へ一番に入るのは決まってやよいだ。それ以外は許さなかった。テナントの外でタバコをふかしながら待つホスト達、数名。その中にやよいへ行為を抱いている美男子が居た。しかしながらやよいのガードは固かった。

 絶対に惚れたりなんかしなくてよ。あなたへは特別冷たくするんだから! 早くほかの店へお行きなさいな。

 やよいオーナーは夜行蝶。アゲハのように舞い、カワセミのように七色。

 オーナー、今度の休み、飲みに行きませんか――? 

 そんな誘いはひっきりなし。誰だって女性オーナーというものには魅力を感じるもの。ましてや独身で美人だ。店の従業員が放っておくはずがなかった。しかしやよいは決して乗らなかった。

 だってそうでしょう? わたしは今、恋に落ちているんですもの。

 その男は果たして誰なのか? 彼らには一切わからない。それもそうだろう。意中の男は店の人間ではないのだから。

 やよいは最近、夜明け方の吉野家へ通っていた。目的は紅鮭定食である。そうではなかった。バイトで働いている大学生に夢中。

 表情は疲れ顔であか抜けていないし、それほどかっこいいというわけではない普通の男だったのだが、ホストらによって目を越えていたやよいにとって逆に好感を持てたのだ。

 通っているうちに気が付いたことと言えば、彼は週休二日あるということと、時間シフトを組んでいるということ。なので必ずこの時間に居るというわけではないのだが、毎日会えない分、恋心はさらに高鳴るばかりでどうしようもなかった。

「いらっしゃいませ――!」

 ふと入り口付近へ目をやる。いつもいじめている店の美男子君。

 あれ? オーナーじゃないですか? どうしてここに? へぇ、オーナーも吉牛たべるんですね。吉牛は俺も大好きですよ。紅鮭定食ですか? ならおれも紅鮭定食にしよう。いつもは特盛とおしんこ注文するんですけどね。なんせ、一日一食しか食べないから腹減っちゃって。胃のほとんどはシャンパンでできているようなものですよ。

 やよいにとってそんなジョークはどうだってよかった。

 この男、わたしの恋を邪魔しないでしょうね? 

 心配になる。

「でも、六本木の吉野家は業界人ばかりですから気にしにしなくて大丈夫ですよ」

「ねえ、わたしがひとりでここに通っているってことは誰にも内緒よ。でないとゆっくり食べれなくなるから。ほら、男の常連客に誘われたりしちゃうし……

「分かってますよ。お互い様です」

「そう、それならいいのだけれど」

 それから二人は会話を交わさなかった。お互いに喋るのが仕事だ。疲れていると言えばそこまで。

 やよいは先に食事を済ませると五百円玉をカウンターの上へおいておつりは取っておいて。と残し店を出た。

 朝焼け時の東京。夜風はまだ残されている。カツカツとハイヒールの音を鳴らしながら駅前へ。そこからタクシーへ乗り込む。あえて吉野家で電話を掛けなかったのは健康のことを考えてのこと。なるたけ歩きたかった。只、それだけの理由である。

 飲み屋で働くようになってから睡眠の質が悪くなった。今では朝二時間と昼間の三時間だけがセイラの就寝タイム。マンションで寝ることもあれば、ホテルで横になることもあった。その日の予定次第である。

 弟はどうしてるかしら? ふと思う。

 最近会ってなかったわね。お互い忙しいんだもの、仕方がないことだわ。それよりも、早く堅気になってくれないかしら? それは無理な話よね。もうどっぷりと浸かっちゃってるんですもの。薬の売人からは足を洗えないはずよ。なんでこんなことになっちゃったのかしらね。

 元をたどれば憎き施設の連中。さらに奥へと入り込めば両親の不幸だわ。

 嗚呼、人生って、運命って、皮肉なものよね。どうしてわたしたちは幸せへたどり着けないのか? それとも人並み以上にお金を手に入れているということは幸せということなの? それは違うわ。だってそうでしょう? こんな幸せなんて不幸なだけよ。

 以前の店の客から伝言が入った。ソープの店長からの連絡だ。南青山でよろしく、と。そう伝えてほしいとのこと。

 客の連絡先を受け取る。普及したばかりの携帯電話番号だ。

 わたしもそろそろ必要かしら? 

 やよいはまだ時代に取り残されたままである。携帯電話を保有していなかった。弟も足がつくからと保有していない。盗聴でもされていたらことだものな。そんな話をしていた。彼は黒電話しか信用していないのである。

 おそらくきょうの誘いは決め薬のことででしょうね。厄介だわ。

 やよいはそう思いながらも琢己へ電話した。直ぐに出た。事務所から出る寸前だったと弟は話していた。

 よかった、間に合うわね。ねえ、きょうポンが一つ欲しいのだけれど……。ええ、前の店の客よ。必要なの。来てくれるかしら? ええ……。ちょっとまって、六本木に来れる? ええ、その喫茶店で落ち合いましょう。それじゃあ。電話を切った。

 正午になった。琢己との待ち合わせ場所である純喫茶へタクシーで向かう。

 色々話したいことは山ほどある。それを頭で整理しながら流れる街路樹を車窓からうかがっていた。

 着く。どうやら弟は先に来ていたみたいだ。よお、と入り口で声をかけてきた。まあ、中ではなそう。ねえちゃん、なに頼む? それと同じ奴にしてくれ。

 ――ねえちゃん、いつまでやるつもりだい? 

 席に座ってからの第一声はそれ。

 なにを? 

 だから、客引きだよ。俺はもういいって言ってんだから、やめときなよ。

 そうもいかないわよ。だって(ポン)中にしたのは、わたしなんだもの。最後まで責任取らなきゃ捕まった時に名前出るでしょ? もう抜けられないのよ。

 いや、それなら大丈夫だ。うちんとこの尻尾(売人)へ紹介してくれよ。渋谷の駅前に居る。

 どうやって? その人(売人)の携帯番号なんか教えきれないでしょう? それはあなたにとってご法度なんじゃなかったの? 

 きいとくれ。今日、男に会うんだろ? これからか? その男に言うんだ。渋谷の駅前に赤い帽子かぶった男が立ってるってな。今後はそいつから受け取ってくれと話せばいいんだよ。簡単だろ? 

 わたしの身体も求めてきたら? 

 それはないぜ。女ならソープの快楽にかなわねえ。奴等は味しめてる。ホストクラブの姉ちゃんより店の女さ。大丈夫だ。

 それならいいけれど……

 心配なら俺が会ってやるぜ? 

 それも足がつくでしょ? 

 そうだな。

 分かったわ。あなたの言うとおりにしてみるわね。

 喫茶店から解散した。南青山へ向かう。

 客とはうまいこと話を誘導できた。弟の言うとおり、目的はやよいの身体ではなくシャブのほう。それが廃人というやつだ。ミイラになればなるほどそれに適したプロフェッシ

著書一覧と連絡先 無料小説 アマゾン出品物 ファンボックス 写真素材

コメント

人気の投稿