オーミチャー 15

 オーミチャー 15

て果たしてあなたが邪魔する必要などあるのかしら? 

 聞きなさい、オーミチャー。わたしがあなたの邪魔をしているなんてとんでもない。わたしは呪い移っているけれど、まだまだ力を発揮していないし、第一、不幸へと転げ落ちるのは運命だってことをよく解りもせずに、どうしてそんなことが言えるのかしら? 良いかしら? オーミチャー。あなたの運命は決まっているの。末路はこんなところではないってことを良く肝に銘じておくことね。

 あら? ありがとう、茜。それならわたしは今を存分に楽しむわ。だってそうでしょう? 不幸が末路なら誰だってそうするはずよ。運命が見えているだなんて、これも不思議なもので気が楽でよかったわ。

 ふん、強がり言ってなさいな。

 やよいは決して店の男連中に惚れなかった。固く言い聞かせていたといっていい。用心していた。それも裏社会で学んだこと。

 同業者に正義なんてないのよ。黒く染まったやつらは皆、悪党。とっても良い顔つきをしているけれど、表へ出れば化けの皮がはがれるキツネとタヌキ。キツツキのわたしは奴等とは違う。だってわたしは空を飛べるんですものね。え? ちがうですって? どういうことなの? それはどういうことなのよ。

 わたしも愚かな女。鳥になんかなれない獣の雌。メスは尻を上げてペニスを突いてもらうだけなの。只それだけの存在でしかない。

 どうしてわかったような口をきくの? あなたにわたしの何がわかるっていうのよ! 

 いいかげんにおしなさいな。

 ふざけないで! 嗚呼――

 やよいは夢から覚めた。時刻は昼間の三時。これから出勤して店の準備やらがある。本当ならば朝の九時には起きて美容関連の店へ行かなくてはならない。美しい女を演じるために。それが夜の女たちなのだから。それについてやよいはまだ慣れてなかった。それもそうだろう。ついこの前までは麻婆豆腐のアバタ顔だったんですもの。

 店へ一番に入るのは決まってやよいだ。それ以外は許さなかった。テナントの外でタバコをふかしながら待つホスト達、数名。その中にやよいへ行為を抱いている美男子が居た。しかしながらやよいのガードは固かった。

 絶対に惚れたりなんかしなくてよ。あなたへは特別冷たくするんだから! 早くほかの店へお行きなさいな。

 やよいオーナーは夜行蝶。アゲハのように舞い、カワセミのように七色。

 オーナー、今度の休み、飲みに行きませんか――? 

 そんな誘いはひっきりなし。誰だって女性オーナーというものには魅力を感じるもの。ましてや独身で美人だ。店の従業員が放っておくはずがなかった。しかしやよいは決して乗らなかった。

 だってそうでしょう? わたしは今、恋に落ちているんですもの。

 その男は果たして誰なのか? 彼らには一切わからない。それもそうだろう。意中の男は店の人間ではないのだから。

 やよいは最近、夜明け方の吉野家へ通っていた。目的は紅鮭定食である。そうではなかった。バイトで働いている大学生に夢中。

 表情は疲れ顔であか抜けていないし、それほどかっこいいというわけではない普通の男だったのだが、ホストらによって目を越えていたやよいにとって逆に好感を持てたのだ。

 通っているうちに気が付いたことと言えば、彼は週休二日あるということと、時間シフトを組んでいるということ。なので必ずこの時間に居るというわけではないのだが、毎日会えない分、恋心はさらに高鳴るばかりでどうしようもなかった。

「いらっしゃいませ――!」

 ふと入り口付近へ目をやる。いつもいじめている店の美男子君。

 あれ? オーナーじゃないですか? どうしてここに? へぇ、オーナーも吉牛たべるんですね。吉牛は俺も大好きですよ。紅鮭定食ですか? ならおれも紅鮭定食にしよう。いつもは特盛とおしんこ注文するんですけどね。なんせ、一日一食しか食べないから腹減っちゃって。胃のほとんどはシャンパンでできているようなものですよ。

 やよいにとってそんなジョークはどうだってよかった。

 この男、わたしの恋を邪魔しないでしょうね? 

 心配になる。

「でも、六本木の吉野家は業界人ばかりですから気にしにしなくて大丈夫ですよ」

「ねえ、わたしがひとりでここに通っているってことは誰にも内緒よ。でないとゆっくり食べれなくなるから。ほら、男の常連客に誘われたりしちゃうし……

「分かってますよ。お互い様です」

「そう、それならいいのだけれど」

 それから二人は会話を交わさなかった。お互いに喋るのが仕事だ。疲れていると言えばそこまで。

 やよいは先に食事を済ませると五百円玉をカウンターの上へおいておつりは取っておいて。と残し店を出た。

 朝焼け時の東京。夜風はまだ残されている。カツカツとハイヒールの音を鳴らしながら駅前へ。そこからタクシーへ乗り込む。あえて吉野家で電話を掛けなかったのは健康のことを考えてのこと。なるたけ歩きたかった。只、それだけの理由である。

 飲み屋で働くようになってから睡眠の質が悪くなった。今では朝二時間と昼間の三時間だけがセイラの就寝タイム。マンションで寝ることもあれば、ホテルで横になることもあった。その日の予定次第である。

 弟はどうしてるかしら? ふと思う。

 最近会ってなかったわね。お互い忙しいんだもの、仕方がないことだわ。それよりも、早く堅気になってくれないかしら? それは無理な話よね。もうどっぷりと浸かっちゃってるんですもの。薬の売人からは足を洗えないはずよ。なんでこんなことになっちゃったのかしらね。

 元をたどれば憎き施設の連中。さらに奥へと入り込めば両親の不幸だわ。

 嗚呼、人生って、運命って、皮肉なものよね。どうしてわたしたちは幸せへたどり着けないのか? それとも人並み以上にお金を手に入れているということは幸せということなの? それは違うわ。だってそうでしょう? こんな幸せなんて不幸なだけよ。

 以前の店の客から伝言が入った。ソープの店長からの連絡だ。南青山でよろしく、と。そう伝えてほしいとのこと。

 客の連絡先を受け取る。普及したばかりの携帯電話番号だ。

 わたしもそろそろ必要かしら? 

 やよいはまだ時代に取り残されたままである。携帯電話を保有していなかった。弟も足がつくからと保有していない。盗聴でもされていたらことだものな。そんな話をしていた。彼は黒電話しか信用していないのである。

 おそらくきょうの誘いは決め薬のことででしょうね。厄介だわ。

 やよいはそう思いながらも琢己へ電話した。直ぐに出た。事務所から出る寸前だったと弟は話していた。

 よかった、間に合うわね。ねえ、きょうポンが一つ欲しいのだけれど……。ええ、前の店の客よ。必要なの。来てくれるかしら? ええ……。ちょっとまって、六本木に来れる? ええ、その喫茶店で落ち合いましょう。それじゃあ。電話を切った。

 正午になった。琢己との待ち合わせ場所である純喫茶へタクシーで向かう。

 色々話したいことは山ほどある。それを頭で整理しながら流れる街路樹を車窓からうかがっていた。

 着く。どうやら弟は先に来ていたみたいだ。よお、と入り口で声をかけてきた。まあ、中ではなそう。ねえちゃん、なに頼む? それと同じ奴にしてくれ。

 ――ねえちゃん、いつまでやるつもりだい? 

 席に座ってからの第一声はそれ。

 なにを? 

 だから、客引きだよ。俺はもういいって言ってんだから、やめときなよ。

 そうもいかないわよ。だって(ポン)中にしたのは、わたしなんだもの。最後まで責任取らなきゃ捕まった時に名前出るでしょ? もう抜けられないのよ。

 いや、それなら大丈夫だ。うちんとこの尻尾(売人)へ紹介してくれよ。渋谷の駅前に居る。

 どうやって? その人(売人)の携帯番号なんか教えきれないでしょう? それはあなたにとってご法度なんじゃなかったの? 

 きいとくれ。今日、男に会うんだろ? これからか? その男に言うんだ。渋谷の駅前に赤い帽子かぶった男が立ってるってな。今後はそいつから受け取ってくれと話せばいいんだよ。簡単だろ? 

 わたしの身体も求めてきたら? 

 それはないぜ。女ならソープの快楽にかなわねえ。奴等は味しめてる。ホストクラブの姉ちゃんより店の女さ。大丈夫だ。

 それならいいけれど……

 心配なら俺が会ってやるぜ? 

 それも足がつくでしょ? 

 そうだな。

 分かったわ。あなたの言うとおりにしてみるわね。

 喫茶店から解散した。南青山へ向かう。

 客とはうまいこと話を誘導できた。弟の言うとおり、目的はやよいの身体ではなくシャブのほう。それが廃人というやつだ。ミイラになればなるほどそれに適したプロフェッシ

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