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小説家で詩人、占い師の滝川寛之(滝寛月)の国際的なブログです。エッセイ、コラム、時事論評、日記、書評、散文詩、小説、礼拝、占いにまつわること、お知らせ、など更新しています。よろしくね。
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オーミチャー 18
オーミチャー 18
えてちょうだいな。
あらあら、そんなことも分からなくて? オーミチャー、いいかしら? あなたはどちら共に朽ち果ててしまうのよ。それならほんの一瞬でも楽しめる場所を選ぶべき。つまりは芸能界が良いってことなのではないかしら?
教えてくれてありがとう。それもそうよね。でも、リスクが怖いの。わたしのことで弟の商売が駄目になってしまわないかだとか。ほら、これまでに一億も使っているのでしょう? それが無駄になってしまうのよ。わたしにそんな価値があるかしら? って思うの。もっと他に良い人をスカウトすれば……。
ふん、それもそうよね。あなたは結局偽りの姿ですもの。元々は酷いアバタ嬢ですものね。腐った麻婆豆腐でしかない貴女に賭けようってのは、弟さんもとんだ誤算だわ。大失態よ。
何もそこまで言うこともないでしょう? わたしだって女なのよ? 茜、あなたってもしかしたら良い女性かと思っていたけれど、酷い人。酷い女。そうなのでしょう?
ふん、そんなことは前から分かっていたことではないかしら? あなたも弟さんみたいに御人好しみたいね?
どういうこと?
いいかしら? 弟さん、琢己さんだっけ? 琢己さんはね、自分だけではなくて兄弟であるあなたのことも救おうとしているの。とんだお涙物語よ。泣けてきちゃうわ。それなのにどぶに捨てようとするアバタ嬢……。わたしはそれが情けなく思うのよ。オーミチャー、いいかしら? あなたは彼へ従うべきなのよ。こっくりと頭をお下げなさいな。
やよいは決断した。芸能の世界へ入ってみようと思った。それにしてもやはり茜は口が悪くてとても怖い霊を演じているけれど、やっぱり違うのだと思ったし、頼もしく感じた。そのときだ。そうだ! 芸名は”守屋茜”にしよう。そう考えた。
「それじゃ姉ちゃん、こいつにサインしてくれ」
あら? 兄弟なのにそんな事(契約)するのね? 中々しっかりしているじゃない。
お姉ちゃん、俺たちももう大人なんだ。勿論、姉ちゃんとは形上のことだけどよ。後から入ってくるもんに示しがつかねえしな。売り上げは折半だぜ。内緒にしてくれよな。ところで芸名はなんにする? 決めといてくれたか?
守屋茜よ。
守屋茜?
そうよ。
これまたありきたりだな。他に良いのなかったのか? なんなら俺が考えとくけど。
いいの。守屋茜で。そうしてちょうだい。
しょうがねえなぁ、わかった。そうしよう。姉ちゃん、初仕事は宣材からだ。今日はゆっくり休んで明日良い顔見せてくれ。プロフィールの写真撮るからよ。
格好は?
衣装なんかはこっちで手配しとく。
今日から昼人間になる。それはとても不思議な気がしたし、なんといっても浩二と同じになるということが嬉しかった。彼と遊ぶのに眠くなったりだとか眠くさせたりだとかが無くなる。気持ちは有頂天だ。給与は目減りするはずだけど預金なら沢山ある。
大学生にふさわしいよう普通の格好をして普通の食事をして普通のお酒を飲みましょう♪ ランクダウンする事がこんなに嬉しいだなんてわたしも変な女だわ♪ でも、それでいいの♪ だってそうでしょう? これはまさに表の世界なんですもの♪
三日後のことだ。
「姉ちゃん、話なんだけどよ……」
嫌な予感がした。
突然、怖い顔してなに?
だからよ、良い辛いんだけど……。男はいるのか?
え?
彼氏だよ。姉ちゃんも分かっているだろ?
何のこと?
これからはよ、メディアに気を付けなきゃなんねえ。異性のうわさが流れると面倒になっちまうんだ。知ってるだろ? それでテレビから干された芸能人をたくさん知ってるはずだぜ?
だから別れろっていうの? そんなのあんまりじゃない! それならこんな仕事やめとくわ!
まあまあ、姉ちゃん。聞いとくれよ。何もそこまで言ってねえじゃねえか。そう言うことは密かにやってほしいんだよ。交際ってやつはよ。ばれなきゃ別に構わねえんだから。
デビューは深夜番組のゲストから。『夜の女社長』というコーナーでの出演だ。これはいいアイディアね。やよいはそう思ったし、やりやすかった。夜の女を隠すのではなくて、初めから公にしておけば怖いものだしだ。琢己の手腕は確かなものだわ。弟もやるわね。収録前、そう思ったものだ。
「一ヵ月も店空けていたと思ったら引退だと? ふざけんじゃねえぞ、こら――!」
やはり胴元はそう来たかと思った。恐ろしい一日。やよいがメディアに露出するとなると店の宣伝にもつながる。第一、「夜の女社長」で売り込んでいる建前上、辞める理由を探せなかった。
結局、わたしは裏から抜けられないのね……。嗚呼、浩二。ごめんなさい。わたしは昼の女になれると勘違いしていた。でもしょせん無理なのよ。不可能なの。だから、いつか貴方とさよならしなきゃいけなくなる時が来るかもしれない。いえ、ぜったいに訪れるのよ。仕方のないこともあるの。でもね、分かって。今すぐでもないもの。もう少しだけわたしの傍に居ててくれるかしら? ねえ、浩二。あなたはとても素敵な人。わたしなんか後々迷惑になるだけよ。裏社会が睨みつけてるわ。あなたまで巻き込みたくはないの。だって、そうでしょう? 弟と同じくらいに大切に思っているんですもの。当然だわ。でもね、あなたがわたしのことを一生忘れないように一杯思い出を作ってあげる。身体に、ペニスに、脳裏に。いけないアゲハチョウ。わたしは夜の女。厄介な人に出会ったって後悔してる? それもそうよね。わたしね、もとは酷いあばた顔なの。麻婆豆腐と言われていたわ。いいえ、いまだにそう呼ばれているの。茜って知らないわよね? わたしと同姓同名の女がいるのよ。わたしって芸名のほうだけどね。うふふ♪ 今夜はそんなことどうだっていいじゃない。ほうれ♪ 思いっきりバキュームフェラチオしてあげるわ♪
メディア出演の依頼はどんどん増えていく。テレビにラジオに衛星放送。コメディー番組にワイドショー番組。人生相談のラジオ番組。需要はたくさんあった。
大人の裏社会という番組では顔出しNGだ。暴力団組織にまで言及しなかったが、ぎりぎりのラインで番組を沸かせた。性の番組では視聴者をフル勃起させたほど。とにかく面白くて楽しい。正直、”こんなんでいいのかしら?”だとか”芸能界もちょろいものね♪”などと高笑いもした。あまりに収入が多いものだから、税金対策で自身のホストクラブ客へドンペリをプレゼントしたりした。そのウケが良くて夜の商売も繁盛してしまう。正に好循環。天国を感じたし女王様気取りでも許される。誰からも好かれたし、何十名もの著名人男性も寄ってきた。正直、誘いを断るのがもったいないほどだ。やよいは避けた。駄目。誘惑には負けた。魅力に取りつかれた。数名の著名人と寝る。秘密的に高級ホテルの密室で、した。彼氏にはばれなかった。ばれるはずもなかった。
彼は違う世界の男。一般人が足を踏み入れない領域でわたしは浮気をしているの♪ これって最高のパラダイスではないのかしら?
勢いは来ている。調子に乗らない方がどうかしていた。
やよいとて一つの人間。歯車が狂った人間なんですもの。憑りついている茜も幸せでしょう? さあ、一緒にザナドゥの世界を楽しみましょう♪
「姉ちゃん、どうだい? 今夜、飯でも食いに行かねえか?」
芸能事務所社長である弟の誘いは断れない。そんなことを言っても誰も信じなかった。やよいは”男の誘いを断らない尻軽女。まるでキャッツアイ。”と異名を取られているほど社交的な女性になっていた。立派な社交界の女である。社交界では”セックスはお遊び”なのだ。マスカレードナイト(仮面舞踏会)をやったこともあるし、セイユーセイミーの曲だって知っている。だからこそのセックスはお遊びなのである。弟の琢己と寝たことはない。勿論だ。遺伝子が拒絶反応を起こす。その男とセックスをしてはいけません。と神がお告げになられるのだ。
「姉ちゃんもすっかり社交界の女になっちまったな」
鍋をつつきながら生ビールを飲む。ここは居酒屋だ。休みの日くらい”ぐでっ”としたかった。ドレスコードは御免だ。琢己はそれを知った上でこの店を選択したに違いなかった。思いやりのある弟ね。素晴らしいわ。ほくそえむ。やよいも生ビールを飲み干して”お代わり注文”した。三杯目からは日本酒だ。冷酒でいただく。鍋の具を小皿に取り、ひと口ふたくち食べながら飲む。グラスのお猪口でぐいっとだ。時折、具へマスタードを付けて食べる。おでんのようで美味しかった。塩だしのちゃんこ鍋だった。薄味で、疲れた胃袋にやさしい。
「ところで彼氏はどうしてる? 別れたのか?」
言いたくないことを訊くわね。そう思う。
べ、つ、に。
なんだよ? 教えなよ。俺たち、そう言う仲だろ? 社長としても気になるんだ。話しとくれよ。
まだ別れていませんよぅだ! うふふ♪
うんじゃ、別れちゃいないが、会ってもいないということか? 忙しい姉ちゃんのことだ。そうなんだろ?
そうよ、せいかぁい♪
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