スキップしてメイン コンテンツに移動

注目

愛するということ 最終話特大号

   正樹は戸惑いながらも訊いてる事が分からないとでも言いたげに答えた。彼の頭の中は今、正に動転していた。 「だから、お前の気持ちはどうなんだよ」  苛立ちを見せた態度で智彦は言った。 「ああ、そうだな …… 」   正樹は正気へと戻り、冷静に言葉を探した。そして思った。   前にも同じ様なことを考えたが、友情が日増しに掛替えのない物となっている今、智彦の思いを裏切るわけにはいかない。ましてやこの世界の彼は、恵の事を正樹よりもずっと昔から想っていた。正樹はそれを思うと、智彦に対してとても哀れにも似た感情にさえなる。   やはり、身を引こう ―― 。   正樹は自分が恵と付き合うことで彼女をまたしても不幸になどしたくはない。自分に縁がないのならば、世界を変える大罪は、やはり全てを良からぬ方向へと未来を進ませるだけだろう。いや、その前に何もかもが消滅してしまう。   正樹は、たとえばもう一つとも言うべき第三の現実的世界があったとして、恵に再び出会い、関係を築いただろうと信じながらも、しかし、その三つある全ての世界の内一つだけは、少し離れた場所からそっと彼女を見守る愛し方もあるのだと、彼は心にそう言い聞かせた。   正樹は今、遠く上空に見える雲の流れに目を細めた。只、自然 に、 風に流され場所へと向かうその物体は、まるで人生における宿命を思わせた。   正樹は、一つ溜息を隠しながらもした後、智彦へ向いた。 「お前とならきっと良い方向に行くと思う。俺が言えることはそれだけだよ。大丈夫、全ては上手く行くさ」  発せられたその言葉は、少しばかり涙混じり に 揺らいだ。 「それじゃ、協力してくれるか ? 」  智彦は笑顔になって訊いた。 「ああ、勿論。それで、俺は何をすれば良いんだ ? 」  苦痛に満ち溢れながらもそれを押し殺し、やや無感情的に落ち着いた調子で正樹は 訊く 。   智彦が正樹に寄ってきた。彼はまるで誰にも聞かれてはならない様に小声で「実はな、あいつに気持ちを探って欲しいんだ。俺の事どう思っているのか訊いてみて欲しい。それでな、その答え次第で最終的に告白するかどうか決めようと思ってる」と、話した。 「そうか …… 」  言って正樹はもう一つの世界の自分を思い出した。   そう言えば、恵と関係を持つ前、智彦に相談しようとしていた事があった。それがこの話だ。世界はやはり

オーミチャー 22

 オーミチャー 22

 考えてみれば酷い人生。目を瞑りたくなる事ばかり。怒りがわいてこない今の状態では哀しみがとてもつらく感じられた。

 もう死んでしまってもよいと思っている。それでいいと考えている。だけども死ねないのはなぜだろう? 

 詩のようなものを思い付いた。今度、紙に書いてみよう。忘れないうちにメモしましょう。そう思うけども、自傷行為防止のために鉛筆など尖ったものは禁止されている。だとしたらどうしてライターはいいのかしら? あの人たちは何処から火を頂戴しているの? 不思議なものだ。

 幻聴と幻覚は相変わらずひどい。ドアのない壁の向こうから声が届いてくるし、白い幽霊を何回も見た。確かに精神病院の頃と比べてみると大したことではないのだが、それでも異常はきたしているレベルである。覚醒剤と同じ成分の強力な抗鬱剤が影響しているのだろう。減薬したいけれど、それほど治ったわけではない。発狂はしなくなったけれども、極度の精神分裂はしなくなったけれども、やはりおかしいのである。脳のネジが足らない。ボンボン時計は壊れてしまっていた。

 ねえ、聞いて茜。わたしね、社会復帰する前に明日生きることを考えなきゃならないのね。それってとても哀しいことだわ。だってそうでしょう? まるで寿命が縮まったようなきがして寂しくなるじゃない。

 オーミチャー、あなたは何を言っているの? 今更、生きたいだなんて思う方が悪党よ。悪魔なの。あなたの頑張り次第では今すぐにだって死ねるはずだわ。さあ、お死になさいな。

 茜、あなた相変わらず口が汚いわね。そうやってわたしを励ましているつもりなの? 奮い立たせようとしているの? その言葉、今のわたしにはとてもつらいのよ。分かっているでしょう? 怒ってほしいの? 怒る気力なんてないから残念ね。

 あら? オーミチャー、あなた完全に死んでしまったようなのね? そういうのを生きる屍と呼ぶのよ。もともと麻婆豆腐のあなたにはお似合いではないのかしら? 

 そう言えば、琢己は元気にしているだろうか? 精神病院へ入院させたのはきっと弟なのじゃないの? 思いが交錯する。

 他に身寄りが居ないものね。当然といえば当然だわ。それとも他の人間がそうさせたの? ちがう。支援施設にしても裏社会の人間でなければ知らないはずですものね。

 弟に会いたいと思う。叶わぬことなのだろうか? 見舞いには来ていない。

 覚せい剤なんかで馬鹿しちゃったわね。わたしの人生も終わりだわ。何が芸能界復帰よ。わたしったらとんだ甘えん坊ね。もう復帰なんかできるわけないじゃない。芸能界はシャブに厳しいのよ。スポンサーあっての商売だから。わたしなんかお払い箱ね。もうじき話のネタにすらなっていないのではないのかしら? 忘れられた女、守屋茜は死んだの。これからどう生きていけばよくて? 大道やよいとして生きること。オーミチャーとして生きることしか残されていないのよ。それはどういう事かしら? ソープ嬢に戻るということ? それは悪くないわね。だってあそこの世界は楽しかったし生きがいを感じた。居場所は此処だって思ったもの。考えてみれば整形したのがいけなかったのだわ。わたしはどうかしてた。偽ったところで何にもならないどころか不幸が押し寄せてくるだなんてあの時は思いもしなかったこと。でも、幸せを感じたものだわ。新しい自分と出会って嬉しかったことは正直な話。一度でもいいから男にちやほやされたかった。男から誘うセックスがしたかったのよ。

 今夜の夕食はハンバーグ定食。学校給食のように運ばれてきた大きなコンテナにトナーごと入っている。それを取り出し共用の丸いテーブルで食するのだ。温かさは少しだけ感じるのだが、とにかくぬるいのが特徴的で、料理が本当に美味くなければ食えたものではない。そこら辺の心配はなかった。いつもおいしい食事を用意してくれる。一食あたり二百五十円だが、障害者手帳で国負担。それらの手続きは施設の事務方がしてくれていた。

 夜は消灯時間までテレビをぼうっと眺めて過ごす。思考回路を刺激するドキュメンタリーかワイドショーがいい。時刻的にそれらはやっていないものだから、NHKのニュースを皆してみていた。決して口には出さないが、コメディーは観ない。自分が笑いものにされているようで嫌になるからだ。馬鹿げている笑い声は施設の人間にとって毒そのものでしかない。禁句なのだ。

 トンミーが見舞いに来たのはだいぶ後。それから二年後のこと。見舞いと言っても迎えみたいなもの。

 姉ちゃん、今日出してやる。まってな――

 朝一で訪れた琢己はそう告げると午後まで戻ってこなかった。午前中で医師が診断書を作成し、退所手続きまで済んだ。午後一になってから琢己が戻ってくる。

 さあ、出よう――

 そう微笑んで。

 退所後にすぐ向かったのは美容院。髪を整え綺麗な化粧をしてもらう。外着の洋服は弟が用意してくれていた。ドレスコードのある有名なステーキ屋へと移動する。高級ワインで乾杯した。肉もアメリカ牛の赤身だが上等で柔らかく美味しかった。

 姉ちゃん、償わせてくれ。これからもっといい思いさせてやるからよ。けど、薬は駄目だぜ。そいつだけはもうご法度だ。俺もその商売は引退する。だから約束だぜ?

「それで、これからわたしに何をしろっていうの?」

「何にもしなくていいんだよ。安心しな。全部、俺が面倒見てやるからよ」

「それじゃあ、これから群馬県?」

「女将と別居しちまった。今は白金台のマンションに一人暮らしだ」

「そう……

「なあ、ところでよ。姉ちゃんに芸能界復帰はもう無理だぜ。考えるだけ時間の無駄だ」

 琢己がアイコスを点けた。加熱式煙草というやつだ。東京は禁煙ブームでもっぱら喫煙者に厳しいだのどうだの話していた事を思い出す。社会は一変したのね。まるで浦島太郎のような気持ちだわ。

「何か趣味探しなよ。ボールペン字だとか書道だとかそう言った奴をよ」

 何もしなくていいといったくせに二言目には趣味をしろだのうるさい坊やだわ。わたしの弟でなければひっぱたたいている所よ。わたしを馬鹿にして。わたしはまだやれると思っているの。社会復帰しようと考えているのよ。そんなことはなしても無駄ね。わたしだって無謀なことはやめて、白金台のマンション? そこで隠居してればよいのだわ。ヘネシーでも飲んで。でも今はサントリーの知多あたりがわたしには上等かも。

 白金台のマンションは5LDK。一部屋使ってくれと言っていた。残り四室ある。持て余しているといえばそこまでだ。そうでもなかった。衣裳部屋に倉庫。寝室に書斎。ひとつ余っていたのは本当にラッキーだったのかもしれない。それにしても少し広めの部屋だ。掃除はされている。クリーニング屋に頼んだのだろう。カーテンではなくブラインド。ベッドの代わりに本革のソファーが置かれていた。ソファーは腰を痛める。あまり寝て居られない。幸いにも床はカーペットだ。最初に準備が必要なのは寝具ね。

「姉ちゃん、ちょっくら仕事に行ってくらあ。今夜は残業だぜ」

「気を付けて」

「何に?」

 なんとなく。そう言いかけてやめた。何も心配する必要はない。それとも、わたしったら何か引っかかる事でもあるというのかしら? 馬鹿げている。少し自分がおかしかった。うふふ と微笑む。それは奇妙に映ったかもしれない。病み上がりで嫌な病名も付いている。やよいはあっち系の人間であったことは確かであり、今現在も完治したわけではなかった。琢己が気を悪くするのも無理はない。

「姉ちゃん、怖いこと言うなよ。こっちだって心配になってくるぜ」

「悪かったわ。そんなんじゃないの。気にしないで」

「明日の早朝には帰る。朝食は吉牛の弁当でいいか? 姉ちゃん好きだろ?」

「ありがとう。それでいいわ」

 行ってくる。弟は部屋を後にした。

 さあ、気晴らしに一杯しましょうか? 知多はあるかしらね? ここは高級酒しかないの? 

 棚を眺める。シングルモルトウィスキーの山崎があることを知る。

 これでいいわ。これくらいでちょうどいいのかも。

 冷蔵庫のフリーザーから製氷を二つ抜き出してグラスにほおる。山崎はロックがいい。味が確かなのだ。ひと口ふたくち舐めると世界が一変する。樽の匂いは琥珀色で透き通っていた。

 テレビをつける。バラエティーはいまだに苦手だ。ドキュメンタリーの衛星放送に切り替えると、グラスをテーブルへ置いた。

 気が付くと唇からよだれを垂らしていた。どうやら寝てしまっていたようだ。時計の針は夜中の一時ころをさしている。琢己はまだ帰ってきてなかった。

 シャワーでも浴びましょう。

 やよいはそのままリビングで全裸になり浴室へ向かった。浴槽にはジャグジーが付いている。

 しめたものだわ。今夜はゆっくりつかりましょう。高級な風呂場は久しぶりね。

 結局、朝になっても弟は帰ってこなかった。吉牛の約束をしていたのに。そう思う。期待していた。楽しみ。それ以上に琢己が無事に帰ってきたことを喜びたかった。

 ふと思い出したように自分の携帯電話をバッグから取り出す。スマホの使い方など、時代に取り残されていたやよいに分かるはずもなかった。電源を点けることもできずにしまう。

 やれやれ、ここには固定電話ってものがないの?

 あれから一日たった。さすがに心配でしょうがない。だけども弟の電話番号はとっくの

著書一覧と連絡先 無料小説 アマゾン出品物 ファンボックス 写真素材 ニュース 質問箱

ユーチューブ 無料占い鑑定 ココナラ出品物 株式銘柄 慈善活動 公式ヒロキリスト

コメント

人気の投稿