運タマギルー 6

 運タマギルー 6

飲み込みました。肉なんてろくすっぽ食べたことが無い。確かまえに食べたのはもう何年か前の話でした。この先でありつくには再び何年後かもわからない中で、それはそれはたいそう貴重な食料に感じていましたよ。

 おっかさんは手慣れた様子で野ネズミの皮をはぎ取り腸をえぐっては、丸ごと鍋の中へほっぽりました。さあ、ぐつぐつ煮込みますよぅ。汁があふれ出ないように息吹きは慎重にです。

 ほうれ、ギルーや。少しだけ味見してみるかい? おっかさんが言うと彼は飛び起きるようにして跳ね上がりました。それから木製のお玉で、黄金色に染まった透明の汁を一口すすります。

 うんめぇ! 

 そうだろう、そうだろう。これになぁ、へそくりの手前味噌を入れるだ。尚更、美味いはずだぞい。

 味噌まだあっただ? 

 うむ。

 やったぁ! こりゃいいや!

 さてさて、いよいよ夕食ですよ。食卓のない家庭ですから、木製の食器は居間の床に置きます。食器と言っても汁だけですからね。鍋とお椀のひとつあれば済むわけです。

 ギルーは食事をしながら番人の道場についてだとかいろいろ詳しく話をしました。おっかさんは何にも答えません。黙って聞いているだけです。彼はもしかしたら話してはいけないことを喋っているのかな? と段々思い始めましたが、喋らずにはいられないために今日あった出来事をすべて話してしまいます。

「ギルーや、どうしても道場へ行きたいか?」

「そりゃあ、白い飯が食えるだど? 行きたくない方がおかしいっちゃろ?」

 おっかさんは再び黙りこくります。一体何をそんなに考えこんでいるのだろうか? ギルーには理解できませんでした。

 ギルーや、うちらは農家だ。大人はおっかさんの一人で、力仕事には当然あんたの力も必要だ。でもなぁ、もしあんたがお京へいくなら、おっかさんは何にも言わねえ。行きたきゃ行けばいい。おっかさんはな、あたし一人食う分だけなら自分一人で何とかなる物じゃてのう。だからなぁ、ギルーよ。くれぐれも中途半端な行動は許されねえだぞ。道場へ行くなら、夕方、畑仕事終わってから行け。それでなぁ、行くからにはてっぺんめざしんしゃい。おっかあの心配はいらねえよ。

 ギルーは最後の最後に取って置いた野ネズミの肉を大切に噛み砕きました。肉質はやわらかくて、それでいて噛めば噛むほどに味がある野ネズミの肉は本当にたまらないものがありましたが、何せ独り占めしているような気がしてよい気がしません。彼は何度もおっかさんにおっかあもたべるだか?とは訊くものの、おっかさんはぜんぶあんたがたべんしゃいと返してきてラチがあきません。そうこうしているうちに気がつけば野ネズミの丸ごと煮は骨だけになってしまいました。

「骨だけになっちまった……

「いいんだよ。おっかさんは紅イモだけでいいんじゃ。気にしなさんな。ギルーよ、全部食ったからには明日から尚更仕事を頑張るだぞ。それから道場。負けたらあかんよ」

「んだ! 絶対に勝っちゃるけんね! それで京へ行って役人さなるだ!」

 今宵は満月。遠い浜から流れる小波のせせらぎも、このしずかな島では山のてっぺんまで音が届きます。すやすやと寝るギルーは、今頃、何を夢見ているのでしょう。それは彼にしか分からない内緒話ですよ。

 さあさあ、ギルー伝説は始まりを迎えようとしています。これからの彼はどうなってゆくのでしょうか? たのしみ、たのしみ。おっかさんは一度微笑んでからギルーの寝顔を見つめて外の月明かりへ目やりました。とてもとても気持ちの良い夜ですよ。

 

 

 初夏の早朝五時半毎日のように食べているコニードックカロリーを消費するために、ベッキーは近くの国道でジョギングをしていた。勿論、ダイエット中のお姉ちゃんも一緒だ。距離にして二キロ弱。一キロ折り返し地点には隣町のマクドナルドがある。その店舗は休みなしの二十四時間営業。大きな鉄塔の看板は、エムの文字に明かりを灯して、くるくるといつまでも回っていた。ダイエットが始まってからの朝食は決まってバナナ一本だけである。それと100%オレンジジュースをコップ一杯。育ち盛りには物足らなかったが、これも学君とうまく付き合うためだと思えば我慢できた。

 学校はとても近いので七時半頃に出たいのだが、学君は早く登校するので、彼に声をかけようと思い立ったあの日から早く家を出ていた。学君と朝一から会う。それだけでも会話を多くすることができるとおもうと足取りはいつだって軽かった。

「まなぶくん、おはよう

 登校してから彼の教室へたどり着いたときするいつもの挨拶は、緊張というものがほぐれてきておりサマになってきている。学君はいつもおお! ベッキーか。おはよう!と元気良く返してきてくれた。そんな大した話をするわけではない。会話を交わすわけではない。只、声が聴きたいのだ。声を聴いてほしいのだ。甘い音色、尖った音色、ごつごつとした音ざわり、滑らかな音感。全てが大好き。そこにたらないものなど存在しない。それでもあえてひとつ注文するとすれば今すぐにわたしの制服をはがして温めて愛してである。それは叶わぬ空想だ。それならばせめてキスがしたい。あなたの柔らかい唇とわたしの凍えた唇とを密接させたい。ねえ、わたしね、今すぐに接吻がしたいの。言えるわけがなかった。やがて他の生徒らが教室へ次々と入ってくると、嗚呼、今日はここまでね。とあきらめるしかない。それじゃあ、昼休みね 約束を交わして自身の教室へと戻った。ベッキーの教室も生徒らが次々に押し寄せている。親友の梓も登校してきた。

 おはよう、ベッキー 

 おはよう、梓 

 ねえねえ、今日も話ししたの? 

 うん……

 うまくいってるじゃん 

 うん……

 よかったね 

 うん……

 何よ、さっきからうんうんって。もっと自信持ちなさい 

 うん……

 またぁ! 

 ごめん……

 始業時刻から三限までは勉強に集中できる。実はそのあとが問題。このあたりからお腹がすきだす。するとどうだろう? ベッキーの妄想世界では学君の極太ペニスが浮かんでくる始末でとてもとても授業に身が入らなかった

 ふとおもう。アメリカンビックバーにチリソースとバーベキューソースを塗りたくって、それらを全て淫乱化した舌でしゃぶりつくしたらどんなにおいしいだろうと。想像しただけで膣が濡れてくる。嗚呼、たまらないわ……。いいでしょう? 学君。

 昼休みになる。今日は学君がベッキーらの教室へ来たのち、三人で机を囲って昼食を取る予定。教室の窓から眩しく光る夏の陽光に酷い暑さを感じたけれど、こちらは冷房の効いた室内だ。肌は汗だくではなく、カラカラのすべすべ。そう言えばもうじき夏休みね。学が来たのち昼食をともにしながら三人の話題はそれひとつになる。

「夏休みと言えばやっぱり海だろ!」

「うんうん、でも夏祭りも楽しみだわ

「それからそれからキャンプとかあるじゃない?」

 キャンプ? 学と梓がそろってベッキーの顔をまじまじと見つめる。え? わたし変な事言っちゃったかしら? 一瞬思う。ああ、そうか。学君と梓は家族でそう言うことあまりしないのね? そっかそっか……

「ねえ、ふたりともわたしたち家族のキャンプに参加してみない?」

 それいいね! 

 うんうん とっても素敵 

 絶対行く! 

 わたしも! 

 それじゃあ決まりね うふふ 今年のキャンプはとっても楽しみだなぁ 花火いっぱい買ってもらわなくっちゃ

 後日、ベッキーと梓は夏休み用の水着を買いに繁華街へとバスで向かった。期末テストはだいぶ前に終わっていて夏休みはかなり目前だったものだから心はウキウキと白いウサギのように弾んでいた。今回は勇気を出してビキニを着る腹づもりだ。恥ずかしくて楽しみで仕方なかった。繁華街の那覇市はとても人だかりで国際通りの真ん中などとても歩けなかった。観光客も多いし地元の人間も多い。それから海外の人たち。正にチャンプルー(混ぜ混ぜ)した台湾のような光景がそこにはあった。

「ねえ、ベッキー お昼ご飯は何処にする?」

 ここは飲食店も多くて一つの問題でもある。一体どこが美味しいのか見当もつかないし覚えられない。これから向かう先は都市型デパートの三越だけども、その建物の一階にも飲食店が犇めきあっている。ベッキーはとりあえずデパートで買い物を済ましてから考えましょうと返した。那覇三越は今歩いているのとおなじ国際通り沿いにある。時刻は十一時ころ。じりじりと太陽の光が歩いているふたりの肌を突き刺す。ベッキーと梓はお互いに母親から借りた日焼け止めクリームを塗っているのだが、それだけでは物足らなさを感

著書一覧と連絡先 無料小説 アマゾン出品物 ファンボックス 

コメント