オーミチャー 5

オーミチャー 5

 盗み聞きしているやよいは苦しくなった。やっぱり、あなたもそうなのね……。と。やよいには友達がいない。しかしながら、さやかだけは特別だと思っていたし、信じていた。だけども裏切られた。

 この悔しさを茜は分かるかしら? 

 ええ、よく解るわ。

 同情してくれなくとも結構よ。

 別に同情はしていないし。これがね、運命なのよ。あなたは一人で生きてゆくしかないの。たとえ施設でもね。おわかりかしら? 

 ええ、よくわかったわ。でもね、きいて。わたしには弟がいるの。腐れ縁の兄弟よ。だから一人にはどうしてもなれないの。お気づきかしら? 

 あら、それはよかったわね。せいぜい兄弟同士で近親相姦でもすればいいわ。

 ふざけないで――

 就寝時の事。消灯時間が過ぎていて、部屋は窓から入る月明かり以外に真っ暗。やよいがつぶやく。ねえ、さやか。おきてる? と。ん? なあに? 返事がきた。

「あなた、わたしのどこが怖いの? やっぱり、顔?」

「やだ! 聞いていたの? ちがうわよ。あまり気にしないで。誰だってルームメイトはこわいものだから」

「そう……。ねえ?」

「なあに?」

「わたしって、からだきれい?」

「そうよ。やよいは体つきが凄くいいもの。もっと楽観的になったほうがいいよ。顔のことは仕方ないじゃない。気にしたって終わることではないのだから」

「そうね」

「もうねましょう。やよいちゃん、おやすみ」

「おやすみ」

 心の中に茜が出てきた。

 ふん、彼女は余裕ね。

 また出てきたのね。こんどはなに? 

 あの子は美形だから余裕ってこと。あなたみたいに皮肉れていなくて結構だわ。

 どういうこと? 

 オーミチャー、あなたは舐められてるのよ。

 舐められてる? いったいだれに? 

 彼女に決まってるじゃない。

 ――? 

 だから、本音はあなたを見下していると言う事よ。馬鹿にされているのだわ。悔しくない? 

 やよいは考えた。今更そんなこと言われても仕方ないじゃない。どうせ全員に馬鹿にされているのだから。茜は何を思いあがっているのかしら? 

 首を絞めるのよ――

 首? 

 そう、彼女の首を思い切りよく絞めるの。すてきでしょう? 

 素敵でも何でもないわ。やっぱりあなた頭おかしいのではないの? 

 おだまりぃぃぃ! いいわ、オーミチャー。あなたがしないのならば、わたしがしてあげてよ。

 ちょっと、なにをするつもり? 

 名案があるのよ、だまってて! 

 だまっていられるはずもないでしょう? 

 良いからわたしに任せて。おだまりぃぃぃ! 

 きえぇぇぇ! 

 茜は奇声を発すると瞬く間にさやかのベッドへ移った。そして寝ていた彼女にまたがり、つよくつよく首を絞めつけるのであった。や、やめてっ! あ、あ、あ……。さやかは声をそう上げた。誰にも聞こえない。部屋のドアは閉め切っている。先生室までは少し遠かった。次第に泡を吹き始めた。もうやめて! やよいは叫ぶ。なにをいまさら。オーミチャー、これもすべてあなたの責任なのよ。わたしの責任ではないわ。罪は全部あなたが問われるの。そして少女園行きよ。少女園ってしってるかしら? 少年院のことよ。そこであなたは同性に集団レイプを被るの。ハアハアハア……、なんてすてきなのかしら。はひゃひゃひゃ。

 ――もうやめてっ!

 その声は辺り中に響いた。先生が駆けつける。こらぁ! やよい、なにをとんでもないことをしている! 止められたオーミチャーは真っ白な世界へと吹っ飛んだようにしてもぬけの殻になっていた。

 翌日からやよいは一人部屋である二階の寝室で生活することになった。担当の先生が時間越しに様子を伺いに来る予定になっていて、おおよそ一人部屋であっても悪いことなど、できはしなかった。わたしはとんでもないことをしたのだわ。毎日毎日自責し叱咤する。嗚呼、もうわたしは人間界とは無縁でありたいの。中学を卒業したら自由びとになるわ。そうもいかなかった。トンミーの存在である。

 両親のいない二人にとって、オーミチャーはトンミーのおかあさん代わり。

 とてもなつっこくて愛らしい子。わたし、この子を置いて社会へ飛び出せない! 嫌よ、そんなのぜったいにいやっ――! トンミー、あなたはわたしと同じ部屋で寝るの。そう、ここで。この広い独房はあなたとわたしの家庭なのよ。だってわたしたちは家族でしょう。ちがうの? それとも一緒に居る事なんかいや? いいわ、明日先生へ言づけてあなたをこの部屋に呼んであげる。さあ、久しぶりに兄弟仲良く一つ屋根の下眠りましょう。

 後日、トンミーは別の荘からオーミチャーの部屋へと移動になった。彼はとても喜んでいたし、わたしもよかったと思ったわ。でもね、ちがうの。わたし、それ以上は望んでなかった。だってそうでしょう? 茜の言うとおり近親相姦するだなんて誰に言えるかしら? やよいはひとり被害妄想的想像をふくらました。当然ながらそんな出来事など起こるはずもない。やよいはあばた顔で声もどもっていて酷い。さすがのトンミーも恐れたほど。彼女は彼にも嫌われていたのだ。

 トンミーはオーミチャーの部屋へ移動になることを拒んだ。ぜったいにいやだ。と。

 でも、おねえちゃん。誤解しないで。俺たち男と女だろ? おれだってフルちんで寝たりだとかしたいのさ。お姉ちゃんだって素っ裸で寝たい時あるだろ? なんせ、この施設は冷房が付いていないんだから。暑い暑い。

 茜はほくそ笑んでいた。ほうら、あなたって本当に誰もいないのね。かわいそうに。でもほら、ちゃんとひとりいるじゃない? わたしという存在が。わたしとあなたは一心同体ではないけれど、お互いに共通点もあってよ。それは何かわかる? お互いに孤独だってこと。そして死んでいると言う事。なに? あなたは生きているですって? 生きたまま死んだようなものじゃない。なにをいまさら。 

 やよいは苦しかった。嗚呼、でもそのとおりよね。わたしはひとりぼっち。誰の助けもこないのよ。そうやって茜と一緒に果てるのだわ。

 さあ、もだきなさい。喘ぐの。素っ裸になって、ベッドの上でひくつくのよ。できるでしょう? 今すぐにオナニーをすべきなの。それがあなたへの慰めでもあるから。

 でも……。誰を想像して? どの勃起したおちんちんを想像すればいいの? 特殊学級の子? 一般の子? 先生? 園長先生?

 そんなことどうだっていいのではないかしら? あなたはすべてのペニスを想像していればいいのよ。それが例え犬でも猫でもカッパでも。うふふ どう、すてきでしょう?

 おかしな人ね。わたしは今、心から落ち込んでいるの! なによ、そんな自分勝手なこと言わないで。わたしは慰めがほしいの。ちょっとまって。おちんちんがわたしにとって慰めだと言うの? そんなはしたない。わたしは淫乱なお姫様ではなくてよ。

 お姫様ですって? よくいうわね。この淫乱雌豚のくせして! あなたはアバタの麻婆豆腐なのよ? 顔からして変ではないのかしら? あなたこそおかしいのよ。狂ってる。狂気の沙汰。そう、あなた自身が狂気なのよ。さあ、踊りなさい!

 踊りなさいって、わたしがオナニーで踊れるわけがないじゃない。なにを訳の分からないことを言っているのかしら? それじゃあ、あなたにはできるっていうの? 狂ったオナニーが。できるの? 踊れるの? 素っ裸で。もちろん、わたしの体を使ってみてもよくてよ。

 ほうら、本音が見えてきたじゃないのかしら? あなたはオナニーが今すぐにでもしたいのよ。それがね、女の本音というやつなのだわ。苦しい時ほど欲する淫乱痴女よ。あなたは立派なアバタの踊子なのよ。さあ、踊りましょう

 やよいはオナニーをした。素っ裸で、淫乱に。濃厚に。いろんな形のペニスを想像して、した。なんだか涙が出てくる。それは嬉し涙なのか、悔し涙なのか、悲しみの涙なのか、おおよそ見当がつかなかった。考えなかった。ただ、無心としていても涙があふれるのだ。もちろん無心ではない。こうしてオナニーをしていると言う事は一心にペニスが挿入されることをイメージしていると言う事。それは分かる。だがしかし、それは無心の先にあるオアシスなのだ。淡い想像なのだ。ひたむきな空想なのだ。妄想なのだ。

 逝った。どうやら茜の方も感じていたらしい。淫乱に。激しく。

 次の日からやよいは学校で大人びた態度を見せつけた。もともとそういう性格なのだが、それ以上に大人びたのだ。なんだか彼女をいじめていた生徒の数も減っていく。最終的にはいなくなった。それでよかった。そうではなかった。

 オーミチャーは空気の存在になった。それはそれで辛いこと。なにを言っても視線を向けても無視されるのだ。それに対して腹が立ったが、まあそれも仕方のないことね。と、

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