オーミチャー 6

 オーミチャー 6

半場、諦めた状況だった。学校の鐘がなる。帰り支度をした。

 一人というものにはなれているし、特段、帰り道がさびしく感じることもなかったのだが、今日は何だか悲しく感じていた。ほんとうに生涯一人ぼっちなのかしら? と。トンミーは腐れ縁の兄弟とはいえ、彼にまで嫌われる始末。嗚呼、本当に高校へ進学する意味はあるのかしら? ふと考える。まるで意味がなかった。だけども、オーミチャーは行くことにした。進学することにしたのだ。

 三年に上がるころには進学先は決まっていて、彼女は工業高校のシステム科へと進む。専攻は国語と英語にした。小説家はこれだと思ったからだ。翻訳家も悪くはないと考えていた。

 やよいのあばた顔は年を追うごとに、ほりが深くなって酷いありさまになっていった。そんなこと気にしていられないもの。彼女は強がったが、茜は酷く失笑する。

 まあ、なんてひどい顔なんでしょう。

 うるさい。いえ、黙っていられるはずもないもの。だってあなたはわたしでもあるのだから。

 わたし茜はオーミチャーではなくてよ。それだけははっきりしておいた方がいいかしら? 

 なにをいまさら……

 だってそうでしょう? 茜は美顔のお嬢様なのよ。それがあなたに取りつくっていうのだからチャンチャラおかしな話よね。でもね、わたしはそれが楽しみでもあったのよ。なぜだかわかる? 同じ境遇でない人間の観察。そういってしまえばそこまでかしら? 

 何をぐだぐだ言っているの? そんなにいやならわたしから出て行ってよ! あなたにはほとほと迷惑しているの。お願いだから出て行って。

 だめよ、そんなこと神さまが許すはずもないもの。あなたはわたしであってわたしはわたしなの まあ、なんてトロピカルなのかしら。素敵な話だわ。

 なにがトロピカルよ! あなた本当はふざけているの? これは真剣な問題なのよ。出て行って! 

 まって。話には続きがあるの あした少年探偵団がこの部屋へ訪れるわ。それで、あなたはね、素っ裸でお迎えするのだわ。皆に見てもらいなさい。あなたの顔にはもったいないとてもきれいな体を。一糸まとうことなく見せびらかすのよ。嗚呼! すてき 

 後日、本当に少年探偵団が怖いもの見たさにだろうか? 部屋へ探検しに訪れた。やよいは言われたとおり素っ裸である。内心、彼女はマゾヒストなのかもしれなかった。それに対して意識したのはこれが初めてのこと。

「みんな、ここは台所だ。もっと奥に入ろう」

 かすかな小声とともに少年探偵団が侵入してくる。やよいは訊いた。

「だれ?」

「ひ、ひぇ! で、でたぁ――

「なぁにをしているのぅ?」

「ひ、ひぇ――

 たじろぐ少年探偵団のリーダー厚君へオーミチャーは近づくと、途端に乳房を彼の口元へ押し付けた。

 さあ、吸いなさい! 

 あひぃ! 

 厚君は言われるがままに桃色の乳首を吸う。とてもきれいな胸元。

 はうん! やだ、この子上手い。

 茜が出てくる。そうね、彼は初めてではないかも。わたしだってこんなの初めてだもの。とっても気持ちよいわ。

 はあん! 逝く! 逝っちゃう! おっぱいだけで逝っちゃうの! 

 ハアハアハアとへ垂れこむ。それを見計らって彼は侵入した裏口から逃げて行った。

 どうして? どうしてこんなにも上手だったの? 

 不思議なこともあるものね。彼はきっとお母さんと近親相姦したことがあるのよ。そうよ、そうに決まってる。

 ちがうわ、厚君はお母さんを手に入れたのよ。玲先生という女性を。

 玲先生? あのホームの? 

 そうよ。

 やよいはシャワーを浴びた。二階の部屋には風呂場とトイレもあったものだから、いちいち一階へ降りる必要もなかった。

 ふう、今日はよかったわ。わたし……

 そうね、とってもよかったわ。また来ないかしら? 

 それは無理よ。だってあんなに怖がってたじゃない。

 それもそうね……

 ねえ? 

 なに? 

 あなた、当直の先生に興味ある? 

 夜勤の先生の事? 

 そうよ。

 やよいは考えてもみなかった。当直の先生。はたして先生は彼女を抱くことがあるのだろうか? 想像できない。思わずやよいは遠目にオレンジ色したカーテンを見やった。隙間から漏れた日が差しこんでいる。彼女は昼夜問わずカーテンを閉めっぱなしにしていたものだから、おおよそ室内温度は快適なほど。いや、この部屋にはエアコンもある。やはり最上階だ。熱がこもりやすくて、なければやりきれない。

 とりあえず昼食をとる。素っ裸のまま、台所へ。ちいさな冷蔵庫からスイカを取り出した。学校帰りにバス停付近の八百屋で安値にて売っていたものを頂戴していた代物だ。やよいが哀れに思えたのか、どうなのかははっきりとしないのだが、半玉で五百円でいいよと店主は笑顔を作っていた。

 べつに一階へ降りればやよいの分も昼食はあったけれど、顔面凶器のようにいつも児童らに引かれている彼女は、ともに食事をとるのが嫌でたまらなかった。やはり中学を卒業して卒園すればよかったかしら? ときどき思う。だけれど、そうもいかない。あと二年間、あと二年間の辛抱よ。彼女はことしで高校二年生に上がっていた。

 非常に化け物のような顔をしたオーミチャーは、学校で白いマスクをしていた。それでも完全隠せるものではない。まるで梅毒患者のような彼女は影で性病を疑われたほどだったが、誰がこの女を抱くやつがいる? ジョークも飛びすぎだろ! と、失笑される始末だったもだから悔しくてたまらなかった。そんなとき茜はいう。繰り返し繰り返し当直の先生を犯せばいいのに!と。

 犯す? 犯されるではなくて? わたしが犯すの――

 しかしながら、れっきとした性的暴行は先生の方から。つぎの深夜、当直は二階へあがってくる。合鍵で鍵を開けた。きぃ……。きしむ音がする。それに気が付いたやよいは、だれ? と訊く。先生は何も語らずにこちらへ歩み寄った。それから素っ裸の彼女へ黒いごみ袋をかぶせる。頭部だけにだ。顔を拝みながらセックスをしたくはなかったのだろう。それについてやよいはあとから気が付いた。声を出すなよ、ころすぞ。ほら、ここだ。ここへ横になれ。ベッドへ誘導し押し倒す。ハアハアハア……。完全には濡れていない擦れで切れた膣がとても痛かった。

「おまえはな、からだけはまともなんだ。いや、それ以上かもしれない。だからな、俺へ毎日奉仕するのさ。ゴミ袋をかぶってな! 酷い顔しやがって。ほうれ、もっと突いてやる! 声は出すなよ。おまえの声は豚以下だからな! ひゃっはっはっは!」

 狂ってる。この人完全に頭がおかしいわ。そう思いながらも、やよいではなく茜の方は完全官能的になっている様子だと言う事が脳裏で判断できたものだから、彼女の精神は非常に混乱を極めた。

 だめぇ! わたしは感じてないの。お願い、やめてぇ――! 

 叫んでやりたい。だが、怖かった。恐ろしかった。声を出せば殺すと発しているこの男はやよいの首を軽く両手で締め付けていたからだ。朝になった。

 オーミチャーはだくだくに胸へ掛けられたザーメンを洗い流すべく、二階の浴室で身体を磨いた。

 もうわたし、こんなのいや……。初めての経験がレイプだなんて、それもゴミ袋を被せられて……。わたしを完全否定しながら犯すなんて、大人はほんとうに酷すぎるわ。わたし、そんな社会へ将来旅立つの? いやよ、それなら死んだ方がましだわ。

 手首をマイナスカミソリで切りつける。ブワッと濃い血液が噴き出した。ええ、これが最期よ。最期なの……。さよなら。さよならわたし……

 そしてやよいは浴室で死んだ。

 

 

 オーミチャーは暗闇に居た。黒の世界に存在したのだ。それがどういうことなのか、彼女にはわからなかった。

 ここはどこ? わたしはだれ? 

 膝小僧から下は滑ったような水だと分かる。そいつの匂いと言えば、まるで褐色した濃血を思わせた。おそらくこの世界へ閉じ込められた屍たちの腐った血液のたまり場なのだろうとは思いもよらない。臭い、とにかく臭いのだ。

 当然ながらそれに目をやることはできなかった。光が一掬いもなくてまったく見えないからだ。両手でさぐってみる。ぬるぬるとした手触りに、ようやくこれが血なのだと言う事に気が付いた。

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