オーミチャー 最終

 オーミチャー 最終

昔に忘れてしまっており、どうにもならなかった。

 仕方なく、悪いと思ったけれども書斎を物色することにした。名刺くらいはあるだろう。そう思っての行動。

 書斎に入る。するとどうだろう? 綺麗に整えられたデスクの上に一通の手紙が置かれていた。

 はて、なんだろうか? 

 そんなことは思いもしなかった。目的はあくまでも名刺である。 

 結局、目的は果たせなかった。名刺がないのである。

 さて、困った。

 ふう……。と息を吐いてからデスクの手紙を目視する。

 お姉ちゃんへ。宛先にそう書かれてあることに驚きを隠せなかった。

 手紙を確認する。

『前略。俺の大事な姉ちゃんへ。

 姉ちゃん、今頃、俺の名刺でも探してるんじゃねえのか?

 そう思って名刺は予備を含めて全部持ってったよ。この手紙に気付いてほしいからな――

 弟の遺体はいまだ上がっていない。手続き上は行方不明者のままだ。

 手紙によると、シャブの売人関係のトラブルで命を狙われているとのこと。売人をやめれば足がつかないように尻尾きりで皆そうなる運命だと書かれていた。なのに弟はやよいのために売人をやめると約束した。それにはよっぽどの覚悟があってこそのものだったろう。

 やよいは泣いた。悔しくて悲しくて泣いた。

 琢己はもう帰ってこない。そう察した瞬間から命が亡くなったような気がした。

 姉ちゃん、いいかい? この手紙を読んだらすぐに逃げるんだ。金なら貸金庫に現金で用意してある――

 最後の最後まで世話をかせてしまった。申し訳なく思う。

 やよいは逃げたらおしまいだと思った。だから逃げることをしなかった。逆に堂々と振舞おう。そんな気持ち。自分の命など惜しくはない。殺されるなら喜んでそうしてほしかったし、元々から死んでいたような人生だ。未練などなかった。

 だけどもこうして生きている。友人紹介の流れで結婚までしてしまって。

 子供は産まないと決めている。大道家はオーミチャーで最後にしておきたかった。旦那にはすべて話している。彼は受け入れてくれた。

「わたしね、もう一度生まれたいの。違う人間で異なる運命を生きたいのよ」

 それが最近の口癖のようになっていた。

 守屋茜は完全魂が一体化していて二度と脳裏に現れることが無い。

 彼女の話していた地獄の地獄はどうやら回避できたのかしら? 

 ふと思い出す。

 でもね、今が辛いことも確かにあるのよ。生きる辛さもあるの。わたしの場合、それが特別大きく存在するでしょう? だからこそ全うするのよ。それじゃあ君はイエスキリストなのかいって訊くのでしょう? いいえ、違います。わたしは只のアバタ姫。麻婆豆腐でしかないのよ。作り物の顔なんか飽きてしまっているわ。だってそうでしょう? この世の中に偽りはいらないのよ。偽るだけ苦しくなる物なの。わたしはね、後悔しているのよ。何もかもに。

 カフェのテラスに風が舞い込んできた。真夏の西風だ。東京に居れば大陸風で生温かかったろうに、今は旅行で小笠原に居る。

 琢己もつれてきたかったわ。それから茜も。いいえ、茜はもう一心同体なんだものね。一緒にいるも同然だわ。

「ねえ。今夜、抱いてね」

 うふふ と、やよいはひとつ微笑んでから、木材でできた丸テーブル上にある花柄ラインが入った白いティーカップの抹茶ラテを、一気に飲み干した。

 

おわり

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