運タマギルー 13

 運タマギルー 13

ああ、そうだな……。なあ……? 

 なあに? 

 いや、やっぱりなんでもない。

 もう、さっきから何でもない何でもないって、もうちょっと男らしくしてほしいな はっきり言って 

 いや、本当に何でもないんだ。只、最近、詩を色々考えて居てな。よく一人の世界に潜り込んだりするんだ。

 デートの最中だとか? 

 本当に御免な。

 ぽつらぽつらある街灯は満月の明るさに入り混じっており、そのやわらかさの中にも日差しのような強さを僅かながら感じた。闇夜というには相応しくなく、おおよそ女子が夜道を歩くには絶好だと思った。

 もうそろそろ秋になるな……。学君のその一言にどことなく哀愁を感じる。

 そうね……。その思いに寄せてベッキーも寂しそうにつぶやいて見せた。

「じゃあ、きょうはここで。あしたね

「ああ、学校で会おう」

 おやすみなさいは、やわらかいソフトキスと共に。

 あたかも二人だけの世界。此処には学君とベッキーしかいない夢のなか。現実の彼方。

 嗚呼、それってすてきでしょう? そうなのでしょう? まなぶくん 

 ひめ。おててをはいしゃく。

 よろしくてよ 

 さあ、ともにゆかん。ザナドゥのみやこへ

 夢心地からさめる。けれども今日はもうさよならだ。その現実が両者を地面へ叩きつけた。

 ハアハアハア……。なぜ? なぜなの? ねえ、どうして学君は行っちゃうの? ねえ! どうして! 

 今宵観た枕元の悪夢は騒然。けたたましくサイレン音と罵声、それから奇声が交錯する。

 嗚呼……、わたし、もうだめ……

 朝、目が覚めるとおねしょをしていることに気が付く。

 なんて恐ろしい夢だったの? わたしったら、わたしったら、脳内では悪夢を恐れているのだわ。心のどこかで終焉を感じているのよ。それって悪夢以上の何物でもない。はやく、はやくこの危惧感を消滅しなきゃ! でも、どうすれば消えてくれるというの? マリヤ様、教えてください! わたしはどうすればよいのでしょうか?

 彼の前で裸になるのです。一緒纏わぬ姿で彼の胸元に飛び込むのよ。

 嗚呼、それはつまり……。セックス? 抱かれるということなの?

 そうよ―― あなたは抱かれて抱かれて抱かれ尽くすのよ――

 それはつまり?

 あなたはバンズに挟まったジャンクハンバーグなのよ―― 

 ジャングジャングジャング…… 嗚呼――♪”

 まあ! なんてことなの? それではまるっきり落ちた巫女ではないのかしら?

 そうよ―― 

 ジャングジャングジャング…… 嗚呼――

 けれども、それもわるくはないわ…… マリヤ様―― わたしは巫女になりますとも―― そうしてジャングジャングジャング…… 嗚呼――

 あなたはパラダイスを夢見ているのね―― けれどもそれは実際地獄なのよ―― ジャングジャングジャング……

 おねがい! 夢から覚めて! 夢から覚めるの! 嗚呼――

 もう終わったことなのよ――

 終わってなんかないわ!

 それじゃあどうする――

 わたしは、わたしは今スグに抱かれたくはないのよ―― 

 そう、それで解決するわ

 終わりはないのよ―― ジャングジャングジャング……

 いいえ! ジャングはもう終いよ。さようなら、マリヤ様

 学校へ登校する。今日は少し色っぽい下着にしてみた。お姉ちゃんから頂戴した代物だ。真紅のシルクにピンクのリボンが付いている。別に特段やりたいというわけではない。セックスをしたいという気分ではなかった。気まぐれの気分転換の様なものだ。学君へこの下着姿を見せるつもりは毛頭ない。言うつもりもない。なのに着けて登校した。

 何故だろう? 本当に只の気分転換でしかなかったのかしら? ほんとうはわたし、すこし期待しちゃってたのではなくて? たとえば校舎のトイレで、だとか。

 このおおきな県道をそこで曲がればスクールゾーン。道幅は半分になる。

 県道の歩道に並んでいた街路樹の姿はなくなり、代わりとして頑丈な白いガードレールが連なっていた。確かに見た目には悪い。しかしながら致し方ないこともあろうに。みんなそう思っていた。ベッキーもそのうちの一人で、安全第一に整備されていることなど説明するまでもなかった。もう、そう言う年頃でもない。

「ベッキー!」

 学君だ。

 やっぱり今日も朝が早かったのね。もうどうしようもない人 でも、すてき うふふ 

 手をつなぐ。そのまま門を抜けた。立っていた生徒指導の先生は何も言わない。

 お前らは特別だ。朝がいつも早いからな。わっはっはっ! 

 それが先生の言い分だったものだから、校内でもこうして堂々と交際できる。至れり尽くせりだ。

「学君、あのね……♪

 ん? どうした? 

 急に恥ずかしくなる。とてもじゃないが今日の下着はシルクの赤だとは言えない。

 しかもピンクのリボンまでついて……。キャー! どうしよう? 

 考えてみてもしょうがないではないか。着けて来てしまったのは仕方がない事。けれども理由が矛盾していることに彼女は嫌気がさした。結局、わたしは素直なシンデレラではないのよ……

 何もないままに学校が終わる。今日も帰りにいつものパーラーへ寄った。

 ひげ親父の店主の話はいつ聞いても楽しいものがある。今回もこけら笑ってその場を後にした。

 公園へ行くか相談しあう。今日は宿題が多いんだ。そう聞くと、嗚呼、やっぱり学君とわたしは違うクラスなのね。と現実に戻されてしまって、なんだか夢心地の放課後が台無しになった気持ちがした。

「それじゃあ、今日は此処でさよならしましょう おやすみなさい

 余裕のそぶりをしてみせているが、内心、崖下へ転落したように絶望感をかみしめていたものだから、おおよそ両手がプルプルと小刻みに震えた。

 少し寒気のような感覚に落ちやられているような、そんな表情をしているのだろうか? 果たしてどうなのだろう? 学君へはどう映っているの? お願い。しっかりして、わたし……

「まだ明るいからおやすみのキスは無しな。それじゃな!」

 えっ? どうして? どうしてキスをしてくれないの? 嗚呼、ちょっとまって! お願い、学君。わたしに背中を見せないで! 戻ってきて! シンデレラは此処にいるの! もう! どうしてわたしを置いてけぼりにするの? あんまりじゃない! それでは物語は成立しないの! だってそうでしょう? わたしは、わたしは……

 こんや、酷い酷い夢を見た。まさに魔物が忍び寄る悪夢そのものだ。

 世界は漆黒の真夜中で、あたかもそこにはベッキーのみ取り残されたようにして酷い孤独を感じた。

 嗚呼、わたし、わたしは此処で息絶えてしまうのだわ。此処で、この世界で死んでしまうのよ。嗚呼、一体、なんてことなのかしら? 純白のドレスを身にまとったシンデレラの結末は、緑色と黒が混じった泥を浴びて死ぬってことなのね? そんなの酷いじゃない! わたしは夢を見ていたのだわ。とてもロマンスグレイなるはかなき夢を。それなのに現実はこうして厳罰をもたらす。叩きつける。どうしてなの? ねえ、おしえて。

 はだしの足元に何やら異変を感ずる。今度は何――? おもう。そんな余裕はなかった。

 この感触はまるでぬくもりのないスライムのようでいてべっとりとしている。それでいて褐色した血液のような臭いがこの空間へ充満し始めていた。

 鼻を突くにおいに思わず怪訝な表情となりながらも思い切りよく足払いをしてみる。しかしながら、べっとりとしたそれは牛糞にたかる銀ハエののようにしてしつこい。払っても払ってもたかってくる。もう! ほんとうにうざい! その一言に尽きた。

 迫りくる恐怖。どうする? どうにもならない。この暗闇の中では想像のみが実態。気持ちの悪いこれは一体何なのか? 思考の先に廻ってきたのは、腐った死体による地獄への道連れ。

 いやよ! そんなのぜったいにいやぁ――

 自身が素っ裸の状態だと気が付くころには、全身中、褐色血まみれだったものだから、おおよそ臭いには不自由しない。これでもかというくらいにベッキーの鼻を攻撃しまくる。

 嗚呼、臭い臭いにおいさん。わたしは天性のマゾヒスト。もっと喘ぐ全身を虐めてくださいな そして官能的に感じさせて さあ、やるのよ! やってしまいなさいな! さあ!

 痛い――! 

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