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小説家で詩人、占い師の滝川寛之(滝寛月)の国際的なブログです。エッセイ、コラム、時事論評、日記、書評、散文詩、小説、礼拝、占いにまつわること、お知らせ、など更新しています。よろしくね。
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愛するということ 13
こに隠された答えの意味が分かるまで。大丈夫、全ては報われるわ」
その後続いた知子のある話に対して、今の恵にはとても理解できる様な内容ではなかった。只一つ言える事は、彼女にはこれから進むべき使命があり、これまで関わった全てにある出来事を意味として生きる事。話しの全てが終わった時、二人は突如として発生した光に導かれた。まるで吸い込まれるかの様にガマの中へ消えていく。
この地域に朝が訪れた。
毎朝のように聞こえるとても暖かい音色が、今朝もこの地にある全ての魂を、恵の体内にて目覚めさせた。ひんやりと取り残された夜風が彼女の体の上を吹き抜けていく。その冷たい風には、緑だけの匂いがとても色濃く感じた。恵はいつの間にかこの土地に広がる芝で青空を見つめている。彼女は息を深く吸い込んだ。
「わかった。お母さん、お姉ちゃん。恵、頑張ってみるね」
恵は知子とまったく同じ感情でそう呟き一滴の涙を流した。
愛すると言う事~第三章
一九八一年十一月。
この島の南部付近に位置する東海岸の港町から少し丘の方へと移した場所にあるこの児童養護施設では、今日も沢山の子供の声が飛び交っていた。
敷地はとても広く、またこの施設は元々、昭和二十八年に戦災孤児の養育施設としてアメリカ軍の手により創設された敷地らしく、とにかく緑が圧倒的に多かった。
建物のほとんどはとてもシンプルで、かつ白いペンキが一色に塗られており、また、その中にはパプテストな礼拝堂などもあった。
園内の東側に面した四つのホーム。その建物は南側から『夕日荘』『朝日荘』『希望荘』『平和荘』と呼ばれていた。一つのホームにて生活を共にする人数は男女あわせて約二十四人で、その児童らを一人の職員が三交代制で常に管理していた。
今日から兄弟四人はこの施設で世話になることになっている。
本日の入所前にぐるっとと一周、担当のものと共に見学して回った。全ての男子児童は、見学し歩行している四人の兄弟を睨みつけている。四人は当然その事に気付いては、怯える様子で老夫婦にくっ付くようにして歩いていた。
「元気でがんばりなさい。今度会いに来るからね」
このやさしい言葉を最後に、四人へ面会に訪れる者は誰一人として居なかった。
兄弟四人を待ち受けていたのは、男子児童による『牙折り』とも言うべき儀式的な集団暴行。彼らに年齢など関係なかった。皆、初夜に同じ出迎えを受け、そして弱肉強食に泣きながらもこの世界を生きてきたのだ。
“やるか、やられるか”冷めた心は、日中問わず施設内へおそろしく漂っていた。上を取るか下へ落ちるか。力ずくな思考が支配したこの世界は毎日がとても過酷で、その現実から児童の誰もが“よそ者”に対して恐ろしい目を習慣的にさせた。しかし、そんな酷く悲しい世界の中にも人並みの友情と恋愛という物は当然あった。
兄弟四人は、施設内で必然的に絆を深めた。外出が許可された時間内に行く山や川、海などへは必ずと言って良いほど四人は一緒だった。また、彼らにはその人数分の友が居て、何時の間にか八人から十二人ほどのグループが完成していた。
金銭に乏しいグループは、当然の様に町外れた自然等が絶好の遊び場。その事実は彼ら男子のみならず、女子もまた同じ様な物。この施設に外と同じ様な時間など存在しない。それはこの子供らにとって、将来とても致命的。しかし、彼らには選択の余地など無い。敷かれた運命のレールは、もう既にこの時点で大きな幸せからは大分かけ離れた地へと向かっていた。
正樹が初恋を知った年。兄弟四人はそれぞれ別の新しい人生へ向かい始めていた。
長男の豊は中学を卒業後、愛知県へ旅立った。卒業を控えている次男も卒業後は本土へ就職する事を決めていた。
実は四男だけ急性的な病気で既に亡くなっていた。非常に重度な症状における闘病生活の末での出来事。三男の正樹より一つ年下だった亮が灰と化し消えた一九八六年の秋。小学五年になっていた正樹に奇妙な出来事が起きた。
亮が亡くなってから約一週間ほどだろうか? 彼は断片的でいて、かつ、不規則な光を何度も見た。それは幻を思わせるほどに一瞬の出来事で、彼自身それが現実に放たれた映像なのだと言う事に関して気付きもしなかった。そういえば弟は、見舞いに訪れた三人の兄へ理解の出来ない話を懸命に教えようとしていた。しかし、幼い彼らには難しかったのか、結局何一つ伝わらぬまま、弟は逝ってしまった。
正樹が初恋した相手は、この施設内に居た。その相手は体育館で見かけた一歳年下の少女だった。名前は”うえむら めぐみ。”そう、全てを消失し、自身へ魂が宿されたあの恵だ。
知子の魂がそうさせたのか、恵は身体のみならず知性も正樹同等で、同級生と比べると大分成長している様に思えた。その為か、学年の差などから発生する子供じみた抵抗的とも言える感情など二人にとっては最初から完全と無に等しかった。先に一目ぼれ惚れしたのは間違いなく正樹だと思われたが、しかし、最初に声を掛けてきたのは恵の方。
恵が入園して二ヶ月ほど経過した頃の日曜日。彼女の身長は高かった為か、入園後すぐに施設対抗女子バレー代表の一人としてメンバー招集されおり、この日も館内でバレー練習に励んでいた。一方の正樹は隣接するグラウンドで野球練習を行っていた。
センターバックが完了し、ベンチで解散した後、体育館の横を正輝は友達らと共に通った。館内が容易に覗ける窓の向こうに、恵の姿が今日も見えた。
とにかく何でもいい。今日こそ彼女に声をかけたい。
彼の心は限界に達していた。小高い場所にある体育館を過ぎた場所にとても広く長い階段がある。そこまで来た時、正樹は意を決したかの様に、一人体育館へ向かって戻りだした。
「正樹、何処行くんだよ?」
仲間の一人である山本学は、戻り行く彼に気付いて言った。
「忘れ物したんだ。先にホームへ帰っててくれ」
「なんだよ、あいつ。最後見たけど、何も残ってなかったぞ」
「いいからほっとけよ。正樹の奴、恵に惚れてるんだよ」
正樹と一番仲の良い佐々木智彦が学の横でそう発した時、館内から女子児童らが一斉に出てきた。”ほんとかよ? ちょっとまて。”智彦と学、学年下の川上健一、村越博史の四人は、近くにある土手へと急ぎ、気づかれぬ様にして密かに回り込んだ。
今、四人は、正樹の行動を身を潜めて観察している。どうやら正樹は、団体で外を移動する女子児童に圧倒され、今日も残念ながら目的を果たせそうに無いようだ。彼が一人、石段にて深く落ち込むように座り込んでいるのが、コチラからはっきりと確認できた。しかし、その時。
「おつかれさま。あれ? 今日は野球、もう終わったの?」
正樹の背後から突然一つの美声が聞こえた。彼は瞬時に察した。恵だ。
正樹の全てが瞬時に硬直する。しかし彼は、何食わぬ様子を演じるような姿勢で、平常に、かつ慎重に、返す言葉を探した。”いつもこれ位の時間に終わってるよ。薄暗くなってくると、最後のボール拾いが大変だからね。”何時の間にか一つ間隔を置いて彼女は座っている。それを直視できない正樹は、横目で恵の姿を確認した。
彼女はこの時から、通常の女性には無い特別なる美しいオーラが存在している事を正樹は不思議にも感じ取れた。それほどに彼女の容姿は何処から見ても美しく光っていた。
「あ!」
グラウンドの周囲を見渡す恵が、突然何かを見つけた。西にある小高い岳の向こうで遠近感により非常に大きくなった夕日が、今、正に揺らぎながら沈もうとしていた。”綺麗……。”思わずこぼれた恵の言葉へ反応する様に、正樹は赤い光景を同じように眺めては”そうだな。”と言った。
「――それじゃ帰るね」
少しばかり会話を交わした後、恵は正樹と違う荘へ戻っていった。彼女の姿がこの場から消えたとき、向こうの林からあの四人が出てきた。彼らは指笛や奇声を発してからかってきた。
「なんだ。お前ら、見てたのかよ」
「正樹、良い感じじゃないかよ」
「只話しただけだよ」
「それにしては顔が赤くなってたよ。なあ?」
「夕日のせいだろ?」
「全く隅に置けないな」
「うるさいって。はら、もうホームに帰ろうぜ」
夜。正樹は二段ベットの中で夕方の出来事を振り返っていた。確かに思えば、彼女の行動には不審な点が幾つかあった。グランドは体育館の出入り口を出れば、奥にある石段の方へ行かずとも様子を察する事が出来る。それなのに彼女はまるで石段の方へ来た時点で練習が終わった事を知った様な言葉を発した。これには何かキッカケを感じる。何よりも、彼女は一人で石段までわざわざ訪れた。まさか、恵は自分と会話する為に来たのか? この後出た答えが勝手な妄想を生み出し、彼の心を弾ませた。二人の間にあった必要の無い壁はやっと消え去った。正樹は喜びの中でそう思った。
次の日より正樹と恵は顔を合わすたびに声を掛けあった。それが大体一ヶ月ほど続いた頃だろうか? 正樹は、いまだ言えない恵への想いを、遂に彼女自身へ告白すべく行動にでた。
正樹はこの日、自身の居る平和荘から一番南側に位置する夕日荘へと急いだ。周囲が大分薄暗くなった十九時過ぎだった。施設は、園外は高校生を除いて十八時、施設内では高
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