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小説家で詩人、占い師の滝川寛之(滝寛月)の国際的なブログです。エッセイ、コラム、時事論評、日記、書評、散文詩、小説、礼拝、占いにまつわること、お知らせ、など更新しています。よろしくね。
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愛するということ 14
校生を含み二十時より完全に外出禁止となる。
「こんばんは。何してるの?」
正樹が徒歩よりも大分速いスピードで目的の場所へと到着した時、勉強部屋の窓から外に居る彼に気付いた恵が、始めて会話をしたあの日の様に、逆とも言うべき先に声をかけてきた。恵はもしかしたら前々からこの時が来ることを、毎晩の様に外を眺めては次なる運命として待って居たのかもしれない。正樹は大分後になってそう思った。それほどに、彼女の発見は不思議にとても早かった。
「いや、ちょっとな……。智彦に渡す物があって……。これから戻るところ」
恵と同荘に居る親友の名前を借りて正樹は言った。
「へえ、そうなんだ。あっ! それ、面白そう。ローラースケート? 今度おしえて」
正樹の両足に装着された、ブレーキ部分が大分磨り減り効力を発揮しないローラースケートは、昔からとても親交のある米軍ボランティア団体より施設へプレゼントとして贈られた遊具の一つであった。
「あのさ、序でに話があるんだけど……。少しだけいいかな?」
少し間を空けて正樹は言った。
「なに? またあの話しじゃないよね?」
既に聞き飽きた様にうんざりとした口調で恵はそう返した。恵の言うあの話とは、正樹が彼女に良く言う冗談の事。しかし、それは違う様子だと、彼の真剣な眼差しを見て彼女は後から察した。
「ちょっと耳かせてくれないかな?」
正樹は恵の耳元に唇を近づけた。そして自身の想いを告白しようと非常に小さな声で話しを始めた。が、しかし、どうしても口篭ってしまう。
「なによ、もう。ちゃんと言って」
苛立つ様に恵は言った。
正樹は胸の内にある言葉をとても口に出す事が出来なかった。そこで、窓際にある彼女の机の上にあったノートと鉛筆へ外から手を伸ばし、それを使って全てを告白する事にした。
『――出逢った時から恵の事が好きだ。もし、恵が俺と同じ気持ちならイエス。違うならノーで答えて欲しい』
正樹が書いた字はとても震えている様に見えたが、恵には彼の気持ちがとても理解できた様子。正樹の顔は大分恥ずかしそうにしていたが、それは恵も同じ。
「とりあえず、俺、これから向こうに上がるから、聞こえるように答えて欲しい。それじゃ、待ってる」
恵が正樹に返事しようと口を開こうとした瞬間、正樹は急に、“もしかすれば、弾かれてしまうかも知れない”と言う緊張からその場に居る事に対してとても耐えられなくなり、事務所がある建物へ通ずる階段の方へ直に移動した。彼女から来た返事はとても早かったが、彼からすればとても気の遠くなる位に長く感じた。彼女から来た返事は周囲に聞こえる位にとても大きく喜びある声で「YES!」だった。二人の交際関係は、この夜から始まりを迎えた。
正樹と恵は、施設内で過剰に広がる噂を避けるべく、会う時は人目を避けた場所で寄り添った。お互いのファーストキスは、礼拝堂の外階段から上った場所にある少し広がった場所で交わされた。この建物は荘から見て一つ丘とも言うべき場所にあり、東海岸一帯に広がる街並みを眺望できた。夜ともなれば夜景がとても美しく、二人は限られた夜の一時を、誰も居ないこの場所で共にする事が多かった。
「恵! 恵! 恵は何処行った?」
彼女の居る荘を担当する職員の大きな声が、すぐ下に見えるホームの女子フロア辺りから聞こえてきた。時計など持ち合わせていない二人は、どうやらこの夜も限られた時間を少しばかりオーバーしてしまったようだ。慌てて戻る恵を見送った後、非常に限られた自由なる場所と叩きつける様に襲う強制なる規律正しさを心から恨んだ。
外は、どれだけ自由で幸せなのだろう?
全てにおいて足りないこの世界に最後まで耐えられる子供などまず存在しない。毎週日曜に集団で聞かされる牧師からのキリストの教えなど、酷い体験をしてきた児童らにとっては耳が痒くなるだけ。
この頃、正樹はまだキリスト教の存在価値をとても理解できなかった。長い朝の礼拝は大事な時間を無駄にするだけで、正樹はこの時も恵と二人だけで使いたかった。それほどに、一日の内二人きりになれる時間というものがこの世界ではとても少なすぎた。しかし、この一時の短さが二人の愛へ対する想いというものを大きくさせて行った。
恵と正樹の特別な関係から発生した体験は、初めてだらけ。手を繋いだり、抱き締めあったり、寄り添い語り合ったり、その一つ一つの初々しい出来事をとても大切に、生涯記憶の中へと深く刻んだ。
恵が中学二年となってから、彼女にのみ感じる何か特別なオーラの様な物は更にとても美しく成長していた。恵の噂はこの頃から密かに正樹より年上の男子からも聞こえてきた。それほど可愛く声までもが美しく誰の目にも見えた。明るい性格だけが取柄だった正樹は、とても不釣合いな恵との交際関係に関して、何時の間にか周囲に嫉まれ羨まれた。また、彼自身も、どんどん素晴らしく完成して行くこの目の前に居る女性は、コチラとはとても不似合いで、とにかく彼女は全く違う世界の存在なのではないか? と感じていた。しかし彼女自身はと言うと、確かに周囲では裕福であったプライドや気の強い性格を多少なりとあえてちらつかせ、近づく男子を払う様に遠ざけていたが、正樹の前ではごく一般の女子と同じに、また、誰にも見せない可愛さのある性格を何時も微笑みながらしていた。口に出しては言わなかったが、正樹はそれがとても嬉しかった。
性的な初体験は正樹が中学三年になった頃、夜景がみえるあの場所で。その日の夜の恵はとにかく、まるでもう一つの秘めた存在がこちらへと語っているかの様に正樹は感じていた。
「正樹、あのね……。昨日怖い夢を見たの。とても恐ろしい夢……」
「ああ、それなら俺も見たよ。そっちに負けないくらい凄い夢をな」
「正樹……。お願い、まじめに聞いて」
この言葉を恵が真剣に発した時、一瞬だが彼女の顔が見たこともない女性の顔とぶれる様にしながら見えた。正樹は驚いた表情を露にした。
「これから……。何故か分からないけど、私……。色んな人に犯されちゃうの。でも違う、誤解しないで! 正樹のせいじゃないから。大丈夫……。私、頑張るから」
「何訳の分からない事言ってんだよ。今日のお前、少し変だぞ……。どうしたんだ?」
正樹は恵の体調が心配になり、彼女の額にそっと優しく手をやった。
「少し熱があるかも……。でもこれ位ならお前の言う通り大丈夫。夢なんか気にすんなよ」
「本当は違うの……。多分、あれは夢じゃない……」
恵はそういった後、正樹の前で瞳を閉じた。正樹は直感として彼女がキスを求めている事に気付き、今度は自身の口を恵の柔らかい唇に密着させた。恵は今、絶対に離れまいと正樹の背中へと腕を回し、踵を少しだけ上げて背伸びをしている。二人は口を開いて舌を何度も絡めあった。その熱いキスは長く続く。正樹は彼女の両肩に乗せていた手を腰の方へと移し、片方を彼女の胸へ男の本能的に手繰らせた。
「いいよ。正樹が初めての人であって欲しいから……。抱いて欲しい。これから私たち、また色んな事があって、もう会えなくなるかもしれない……。感じるの……。すぐ其処まで来てる。嫌よ……。離れたくない」
急に唇を離した恵が涙目でそう発した後、今度は彼女から彼の唇へと再び色濃いキスは官能的に交わされた。最後に二人は生まれて初めて不慣れながらも裸で抱き合った。それはとても温もりのある愛し合い。
愛すると言う事~第四章
『見よ、主はこの地をむなしくし、これを荒れすたせ、これをくつがえして、その民を散らさられる。
地は全くむなしくされ、全くかすめられる。
地は悲しみ、衰え、世はしおれ、衰え、天も地と共にしおれはてる。
地はその住む民の下に汚された。
これは彼らが律法にそむき、定めを犯し、とこしえの契約を破ったからだ。
それゆえ、のろいは地をのみつくし、そこに住む者はその罪に苦しみ、また地の民は焼かれて、わずかの者が残される。
新しいぶどう酒は悲しみ、ぶどうはしおれ、心の楽しい者もみな嘆く。
鼓の音は静まり、喜ぶ者の騒ぎはやみ、琴の音もまた静まった。
彼らはもはや歌をうたって酒を飲まず、濃き酒はこれを飲む者に苦くなる。
すべての喜びは暗くなり、地の楽しみは追いやられた――』
牧師として教壇に立つ園長が、聖書にある言葉をマイクに向かって読んでいる。恵は『イザヤ書 第二十四章』となるページを開き、その言葉に赤い線をなぞった。
これから起こる災いも、やっぱり神の仕業なんだわ……。“隠された答えの意味が分かるまで――”お姉ちゃん、本当に自分は答えをだせるの?
この週明けとなる日曜も正樹と恵は他人の目を意識する事無く朝から一緒に居た。しかし、やはり瞬く間に広がる過剰なる交際の噂には神経をやり、目のある場所では親しい友人のように振舞った。この狭い世界での噂は、される側を更に窮屈とし、やがては“過剰”となりて“イジメ”へと変貌し、最後には“孤独”を長期的な罰として与えられた児童を、特に正樹はこれまで何人も見てきた。それ故に、当初、彼は神経質だった。しかし、遠くか
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