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小説家で詩人、占い師の滝川寛之(滝寛月)の国際的なブログです。エッセイ、コラム、時事論評、日記、書評、散文詩、小説、礼拝、占いにまつわること、お知らせ、など更新しています。よろしくね。
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愛するということ 16
も怖いと言っていた。そしてまた、恵はこう付け加えた。
“これは全部神の仕業で、そして自分は、そこから答えを見つけなければならない。“
――いったい、何が起きるというのか? 聖書の話が事実となるならば、これから起こりうる出来事は、暴行のみで終わるという物ではない。いや、このお告げによる世界は、既に生まれた時から始まっていたのではないか?
これまで聞いてきた恵の奇妙な話は、不思議な事に理屈を通り越した話とこの世界で起こる出来事が常に一致した。正樹は既に、彼女の特別な能力を理解していた。それは、彼自身が光の存在を思い出し悟ったあの時からである。
「なあ、智彦。光の世界はあるって言ったら、信じるか?」
「光の世界? 何だそれ?」
「もう一つの世界の事だよ。心霊現象の話とかで良く言われてるだろ? あの世みたいな。でも、なんかそれとはちょっと違う現実的な世界」
「ああ、その手の話ね。うん、どうだろ? 有るんじゃないの? 見たことないから分からないけどね」
智彦は両腕を上げてみせた。
「俺は見た事があるって言ったら?」
「え? 本当かよ! それで、どうだった?」
「いや、それがさ、何と言うか説明しにくいんだよ。光が何かを見せているような……。こう、何て言えばいいんだろう、誰かが未来を見せてる様な感じかな?」
正樹はここで恵の体験談も話しかけたが、「普通でありたい」と特殊な経験を周囲に隠す彼女の為に止めておいた。
――自分は光の理由を求める必要があるのか? もしかしたら、あの時に聞いた“恵がこれから探す答え”というものは、この自分も何か関係していて、自分も彼女と同じ様にこれから答えを探さなければならないのかもしれない。光の理由はきっと其処から見えてくる。正樹はそう考えた。
『――いつまでわたしは旗を見、またラッパの声を聞かなければならないのか。
わたしの民は愚かであって、わたしを知らない。
彼らは愚惨な子どもらで、悟ることがない。
彼らは悪を行うのにさといけれども、善を行うことを知らない』
まるで変わってしまった健二による正樹と智彦への直接的な愚惨的行為は遂に始まった。
彼はまず手始めとして二人にある全ての仲を壊す事から始めた。方法は簡単。健二は施設内に居る新しい仲間達を使い、とにかくありったけの噂を流した。これは恵や裕美の耳にも間接的に届いた。正樹と智彦はこの時点で各荘内にて孤立した。
確かに正樹と智彦の二人は弱っていた。だが、しかし、二人の『友情』と言う結束は健二の思惑通りには行かず更に強い物となった。
健二は物事が上手く運ばなくなった事に対して苛立ちを覚え始めた。恵と智彦は正樹に何度も言っていた。自分は正樹を絶対に裏切らないから――。しかし、その言葉がのちに自身へ対する感情を辛く失望させた。
『神よ、どうか彼らにその罪を負わせ、そのはかりごとによって、みずから倒れさせ、その多くのとがゆえに彼らを追いだしてください。
彼らはあなたにそむいたからです。
しかし、すべてあなたに寄り頼む者を喜ばせ、とこしえに喜びよばわらせてください。
また、み名を愛する者があなたによって喜び得るように、彼らをお守り下さい。
主よ、あなたは正しい者を祝福し、盾をもってするように、恵をもってこれをおおい守られます。』
正樹と智彦の二人は同じ夢を見ていた。とても暖かく優しい毎日だ。隣には互いの彼女が妻としており、四人で浜辺近くに建てた家で会話などを楽しむ。お金など少しだけで良い。とにかく本当の笑顔が絶えない世界を二人は夢見ていた。
南風がとても心地よく吹きぬけた少し小高いその場所には子供が一人だけ居て、その一つに自分達には与えられる事がなかったありったけの愛を注ぐ。それは、とてもとても素敵な毎日だ。正樹と智彦は、とても悲しい『別れ』が襲い来ると言う事を、とうとう肌で敏感に感じる様になった時、よくそんな話をした。
正樹は、いつの日か恵が捧げた祈りの言葉を思い出し、それを智彦に教えた。
『わたしはわが愛する者のために、そのぶどう畑についてのわが愛の歌をうたおう』
『ああ、わがはらわたよ、わがはらわたよ、わたしは苦しみにもだえる。
ああ、わが心臓の壁よ、わたしの心臓は、はげしく鼓動する。』
正樹と智彦は毎晩の様に十四名ほどの数からなる集団リンチにあう事になった。その中には友である学、健一、博史の姿もあった。彼らは健二の強制的な命令によってその場所に集められて居た。この事件は、健二が『裏切りと失望』を肌で感じ、そして楽しむと言う主旨のものであり、皆にとって酷い出来事。銀色に光る合金製のナックルを両手に装備した健二は言った。
「凶器持ってる奴。いいか、それで顔は絶対に殴るな。骨が折れない程度に体を狙え。明日もあるし死なれちゃ困るからな。後、他に遠慮する奴は、こいつらと同じ目にあわす。とにかく何処でも良い。俺が止めるまで何回でも殴れ」
集団リンチ最後の夜。正樹と智彦は棍棒や鉄パイプ等が見受けられる円陣の中央で、一対一の喧嘩をするよう健二に命令された。冷めきった彼には『友情』という物がとても憎く見えていた。とにかく傲慢以外に到底得る事が出来ないその一つの絆が、彼にとっては虫唾が走るほどにとても醜く見えた。
正樹と智彦はもはや反抗的な態度すら出来ないほどに、心身ともにズタズタとなって居た。二人は口を互いの耳元に近づける様にがっしりとしがみ付く仕草で四つに組み合った。
「ごめんな。許してくれ」
「いいんだ。分かってる。これで終わりになるなら仕方ないだろ」
二人は泣きながら殴りあった。正樹と智彦は、お互いの関係を表現し交わした言葉を思い出していた。二人はこれにより、その言葉の意味を裏切った訳ではなかった。しかし、二人の辛い涙は止まらなかった。
正樹は、『運命』と恵が発した不幸なるお告げの言葉が、今夜この時に完全と終わる事を殴り合いをしつつも願っていた。
長い時間が過ぎ、やがて疲れ果てた後、正樹と智彦は全員を見上げる形で数え切れないほどの足蹴りを見舞った。正樹は少し意識が薄れた。すると、朦朧としたこの場面の上空に光が見えた。しかし、それは何事もなく瞬時に消えた。彼にはもはや痛みなど感じなかった。
――あれは多分。
辛さに耐える事無く、只ぼんやりと光の存在を考えていた。
正樹と智彦は同じ部屋に居た。集団リンチが終わった後、意識を失くした正樹を部屋まで運んだのは智彦一人だけ。荘を担当する職員は、何時もの様に“他人様の児だ”と知らぬ顔を通している。それは入園した時から分かっていた事だ。別に今更驚く事もない。ここに居る大人連中は、たとえ園児が死のうとも全く同じ態度をしてみせるだろう。薄っぺらの布団が敷かれた二段ベットへ寝かせた時、虚ろに遠い正樹の意識は戻った。
「正樹、大丈夫か?」
正樹は智彦に言葉を返そうとしたが、呼吸がとても辛く、今すぐに話せると言う状態ではなかった。
「じっとしてろ。もう終わったんだ。だから大丈夫、俺は気にしてない。とにかく今は何も言わなくて良い。大丈夫。服、めくるぞ」
智彦は正樹の体の具合を確かめた。どうやら骨には異常がない様だ。だが、呼吸はとても不安定のままだ。
「ちょっとまってろ。なんか体冷やせるやつ持ってくる。そのまま動かないでじっとしてろよ」
何か少しでも良い。彼の身体を癒す事が出来ないか考え、智彦はふと思い出したように共同浴室へ急ぎ足で向かった。彼は共同浴室の洗面台で、洗面器に冷たい水を入れては、中にタオルをほおり、十分に水を染み込ませた。
洗面器を台から上げたその時、彼はふと、自分の顔を鏡で伺った。
――とても酷い有様だ。智彦がそう感じた時、急に浴室の電気が激しくちらつきだした。彼は周囲を確認したいが、しかし、不思議にも鏡を見つめたまま微動だに出来なくなっている。“金縛り”だ。智彦は直感的にそう察した。
「うぅ……」
もはや動く事も言葉を吐くことも出来ない。何時の間に、鏡に映る自身の背後に人影が映っている。その人物は見知らぬ大人で、ちらついた光によりその姿をこちらへ断片的に見せた。この大人は男性で、背丈が高く地域の特徴あるやや濃いめの顔つき。そして、なにやら寝間着が酷く汗ばんだ様な格好をしていた。
智彦に纏わり付く金縛りが全身から解けた。彼は洗面器からこぼれる水にかまう事無しに、勢い良く振り向いた。いつのまに人物はすぐ目の前に居て、少し上から見下ろすように此方を見つめている。人物は笑顔で口を開いた。
「ありがとう」
智彦の両肩に、大人の大きな手が届いた。次の瞬間、智彦は奇妙にも記憶が別の空間に
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