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小説家で詩人、占い師の滝川寛之(滝寛月)の国際的なブログです。エッセイ、コラム、時事論評、日記、書評、散文詩、小説、礼拝、占いにまつわること、お知らせ、など更新しています。よろしくね。
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愛するということ 24
った。
「よう、久しぶりだな」
「久しぶり? 何時も礼拝とか何処かで会ってるじゃない」
正樹と智彦は彼に陥れられたと話は聞いている。それなのに図々しくも友達のように自分へ声をかけた健二に対して恵は奥底から腹が立った。恵は堪える事無く言った。
「それに、あたしは貴方と話なんかした記憶なんてこれっぽっちも無いし。本当、自分で図々しいと思わないの?」
「チッ!」
健二はどうやら言い返す言葉を失った様子。
「何か用?」
恵が冷たい眼差しで発した。
「いや、別にお前に話があってわざわざ来た訳じゃない。たまたまさ。何時も向こうのタンク裏で煙草吹かしてるからな。まあ――」
こちらからもう一つ丘へ上がった体育館の奥はちょっとした森林となっており、その入り口となる場所付近にこの施設の飲料用としているコンクリートで出来た大きな貯水槽が二つ並んである。そう言えば過去に蛇口から出た水がとても生臭い異臭を放ち不意に水を飲んだ者はたちまちに腹痛と下痢をすると言う事件が起きた。職員と専門業者が調べた所、原因はその貯水タンクに猫の死体が投げ込まれていた事から。犯人はまだ見つかっていない。あれから二つの貯水タンクの蓋はチェーンと南京錠で頑丈に締められ固定された。恵は、あの事件は恐らく健二の仕業だったんだと、この時霊的なものから感付いた。
「本当に貴方って最低な人ね」
健二の話などろくに聞く事無く恵は口に出してそう言った。
「最低? おい、今の話しに最低な話しなんかあったか?」
「貴方の話なんか知らないわ。猫殺してタンクに入れたのは貴方でしょ?」
「おいおい、いつの話だよ。こいつ可愛い顔して頭おかしいんじゃないのか?」
側にいる仲間達に顔を向けて健二は言った。
「やったのは貴方よ。そんな酷い事して楽しいの?」
「ああ、楽しいさ。快感だね」
健二はまるで面白半分に話を合わせる様にしてそう言った。
「野良猫に残飯あげてる時に、棒で殴り殺すんだ。楽しいぞ」
急に恐ろしい形相となりそう発した健二を見た瞬間、恵の全身に鳥肌が立った。
「おかしな人。貴方どうかしてるわ」
恵はそう言ってから荘へ戻ろうとベンチから立ち上がり歩こうとした。その時。「おっと、ちょっと待った」と、健二がそれを阻んだ。「どいて」恵は言ったが、彼は彼女の言う事をとても聞き入れてくれそうには無かった。
「正樹は逃げたぞ。またお前を見捨ててさ。まあ、結局こんなもんだろ?」
「正樹の話はしないで」
恵の言葉を無視し健二は話を続けた。
「恋愛? 此処でそんな物求めるほうが可笑しい。馬鹿げてる。あいつもそれにやっと気付いたんだろ? まあ、俺が奴でも同じ様に逃げただろうよ」
「何が言いたいの?」
「結局は自分一人生きる事だけで精一杯なんだって事さ。まあ、お前だって同じだろ?」
「違う!」
恵は思わず声を荒くしてそう発した。
「違う? おいおい、本音はそうじゃないだろ?」
「正樹が逃げたのは全部貴方のせいでしょ! 貴方がそうさせた。それなのに最低ね」
恵は毅然とした態度で言った。
「まあいいさ。何とでも言えばいい。まあ、でもとりあえず智彦が死んだ事で、裕美も随分気が楽になってるだろうよ。病院の中でな」
言って、健二はにやけて見せた。
「貴方には人の心が無いの? 本当に最低以下だわ」
健二は「フン」と小癪な態度をとってから、再び話しをし始めた。
「そう言えば、あいつが自分から階段を転げ落ちて死ぬ前、おかしな事を言っていたな。俺のもう一つはもう無いって、いや、俺のもう一つはここで終わっている……だったかな? 訳の分からない事抜かしやがるからあいつの肩強く押してやったよ」
言われて恵は一瞬唖然とした。がしかし、我に返った恵は思考を巡らせてから言った。
「貴方が……智彦は事故じゃなくて貴方が殺したの?」
「自分からって言ったろ? 智彦が死んだのは、俺のせいじゃない」
「黙って! 貴方が智彦を殺したんじゃない!」
恵は許せない気持ちで心の中が一杯になった。
「貴方が……貴方が階段で智彦の肩を押して無ければ、彼は死んでなかった」
恵の睨み付けた目から涙が溢れ出した。
「酷い。でも、どうして? どうしてなの?」
健二の話から、智彦は階段で事故に遭う事を知っていた様に恵は感じていた。また、彼はもう一つある健二の運命までをも見ている。智彦は自身の運命を変える事が出来た。しかし、彼はあたかも神と約束を交わしたかの様に、強い意思で流れるままに何もしなかった。人生には裏表が向かい合って存在している。二つは決して互いの影をなくし一つになる事は無い。彼は何かを見、そして変えてはいけないと悟った。それは一体何の為? 一体誰の為に彼は運命を何一つ崩す事無く死を迎えたというのか?
「彼は見た……もう一つの現実を……」
正樹の話したとおり、智彦は未来を見ている。恵は正樹の声が聞こえた後に出した言葉を、小さく独り言にこの時も呟いた。
恵は我に返って健二に問いかけた。
「貴方の目的は何なの? どうして酷い事ばかりするの?」
「雑草があるだろ?」
「え?」
「この辺にあっちこっち生えてる雑草さ。みっともなくて誰からも良く見られない。刈られても刈られてもまた同じ醜い葉が伸びる。綺麗な花なんか一生咲かなければ、変わる事もできない。雑草は雑草のまま一生終わるんだ」
健二は溜息を漏らすように溢した。そして言った。
「此処に居る俺達はな、みんな雑草なんだよ」
「施設の皆は雑草? 違う! 貴方は全部間違ってる。どうかしてるわ」
「おいおい、お前は違うと思っていたのか? それとも正樹たちと一緒に違う草にでもなれると思ったか? それならとんだ夢物語だ。忘れるな、俺達は皆捨てられて此処に居るんだ。世間から見れば俺達は人間じゃない。野良犬と同じ扱いさ。可哀想だとエサを与えられて何とか生きてるだけ。家族の愛も無ければ、外にある世間体の教養もない。良き未来への始まり? 誰かが言ってたけど、そんな物、俺達にはない。良き未来なんてある訳が無いだろ。もう最初から人生なんて終わってるんだからな」
「話にならない。貴方は馬鹿よ。どいて、もう帰る」
しかし、誰一人として彼女から退こうとはしなかった。
「お願い、此処を通して」
言って、恵は押し通ろうとした。しかし阻止され言われた。
「そう急ぐな。まだ話は終わっちゃ居ない」
「まだ雑草の話でもするつもり? うんざりだわ」
恵は健二を睨み付けた。
「そうさ、雑草の話さ。とにかく俺達は皆、雑草として生きるしかない。見下されて馬鹿にされない様に棘なんかも生やしてな。なのに、お前らはそれを分かろうともしないで、忘れていた」
「忘れてた? 忘れてる事なんか何も無いわ」
恵に言われて、健二は首を横に何度も振った。それから言った。
「此処に人並みの平和があって、それがそのまま続くと思ったか?」
「信じて祈れば終わらない。恵は正樹と――」
「これ以上聞きたくない!」
健二が遮り大きな声で言い返した。恵は一瞬たじろいだ。彼は続けた。
「どれだけ祈ろうと信じようと平和なんて来ないさ。誰にもな。だからお前らだけ幸せってのは、此処では誰も認めないし許されない」
健二が周りに目をやった。そして「おい」と、合図をやった。恵は健二の仲間に両腕を捕まれた。持っていた着替えの体育着やタオルは取り上げられそこら辺に投げ捨てられた。
「何? ちょっと、何よ」
恵は一瞬頭が真っ白になった。そして、まさか――と、そう察した時、「ちょっと、離して!」嫌!」命一杯に暴れて両腕を解こうとした。が、力及ばず、とても解く事など出来ない。健二はかまわず話を続けた。
「どんだけ叫んでも、もうお前は誰にも助けてもらえない。先生に言いつけて里親にでも出るか? まあ、女のお前が行けばただの島流しさ。俺の姉貴と同じ事になるだけだ」
健二が急に悔しさを滲ませた表情で涙を浮かばせた。
「俺は何回も見た……。まあ大した話しじゃないさ。只、世の中は不公平。下の人間は良い様に利用されるだけ。そして誰もその事に目をくれやしない。だから同じ事が繰り返される。ずっと犯されるんだ。俺の姉貴はな、取り上げられたんだ。壊されて盗まれた。それでも盗られた幸せは、そいつらを幸福にも裕福にもさせる。過ちが間違いじゃないんだ。なんでも不公平の下許されるのさ。俺の姉貴は生贄と同じで、欲求で飢えた人間の為に犠
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